No.27–恐怖感からくる夜間不眠-安心させることが大切
当会副代表理事の杉山孝博Drによる連載です。全52回、毎週日曜日と水曜日に新しい記事を追加します。
公益社団法人認知症の人と家族の会副代表理事・神奈川県支部代表
公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問
川崎幸クリニック院長
杉山 孝博
認知症の症状の中で「夜間不眠」「性的異常行動」「火の不始末」などは比較的よくみられる症状で、しかも対応が難しい。それぞれの症状をどのように理解し対応したらよいかを考えてみたい。
まずは「夜間不眠」。
夜になると落ち着かなくなって、大声を出したり、家族、特に介護者の名前を呼んだりするため、家族は眠れないばかりか、近所への迷惑を考えるとたまらなくなる。
どうして、このようなことが起こるのだろうか。
認知症には時間や場所の見当がつかなくなる「見当識障害」がある。目を覚ますと、真っ暗でシーンとして誰もいない、自分の部屋にいることも夜であることも分からない―。このような状況に置かれれば恐怖感に襲われるのは当然だ。
認知症の人は恐怖のあまり、最も頼りとする介護者の名前を呼び続け、家の中を捜し回るのではないだろうか。介護者が来てくれれば安心して眠るが、眠りが浅いから目を覚ます。先ほど安心したことを忘れて恐怖感に襲われ、再び騒ぐことを繰り返しているのだ。
では、どうしたらよいのだろうか。
ここは安心して居られる場所だと本人が感じられるようにすることである。部屋も廊下も明るくしておいて、目を覚ました時、いつも使っているタンスや衣類がすぐわかるようにしておく。
夜中でもラジオやテレビを適切な音量でつけておく。家族の声や好きな歌などを録音したテープを流すなど、いろいろな音が聴こえるようにしておく。人のいる居間で過ごすようにする。食べ物を食べさせる。時には添い寝をする。
「認知症の人と家族の会」のベテラン介護者は、添い寝をし、目を覚ました時には「大丈夫よ」と言って手を握るということをしていた。そうすると、そ れほどひどく騒がずに眠ってくれ、介護者もよく休めたという。私たちも子供のころ、何年間も母親に添い寝をしてもらいながら眠りについたことを思い出せば よい。
夜眠らないのに昼間によく眠るのは、生活雑音が聞こえ、周りが見えるので安心して眠れるのだと考えるのが正しい。
不安感や興奮が強く、どうしても眠らない場合もある。このような時、睡眠薬や強力トランキライザー、鎮静作用をもつ漢方薬等を使って眠らせることも 少なくない。ふらつき、食欲低下、手足口などの震え、異常言動などの薬の副作用に注意し、疑わしい症状がでたら主治医に報告することが必要だ。
杉山孝博:
川崎幸(さいわい)クリニック院長。1947年愛知県生まれ。東京大学医学部付属病院で内科研修後、患者・家族とともにつくる地域医療に取り組もうと考えて、1975年川崎幸病院に内科医として勤務。以来、内科の診療と在宅医療に取り組んできた。1987年より川崎幸病院副院長に就任。1998年9月川崎幸病院の外来部門を独立させて川崎幸クリニックが設立され院長に就任し、現在に至る。現在、訪問対象の患者は、約140名。
1981年から、公益社団法人認知症の人と家族の会(旧呆け老人をかかえる家族の会)の活動に参加。全国本部の副代表理事、神奈川県支部代表。公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問。公益財団法人さわやか福祉財団(堀田力理事長)評議員。
著書は、「認知症・アルツハイマー病 早期発見と介護のポイント」(PHP研究所)、「介護職・家族のためのターミナルケア入門」(雲母書房)、「杉山孝博Drの『認知症の理解と援助』」(クリエイツかもがわ)、「家族が認知症になったら読む本」(二見書房)、杉山孝博編「認知症・アルツハーマー病 介護・ケアに役立つ実例集」(主婦の友社)、「21世紀の在宅ケア」(光芒社)、「痴呆性老人の地域ケア」(医学書院、編著)など多数。