認知症の本人の声

認知症になって思うこと  (57歳・男性・関東地方在住)

関東地方にお住まいのSさん(57歳・男性)は大学卒業後、システムエンジニアとして働いていましたが、45歳頃から会議記録が書けないなど、異変を感じるようになりました。

徐々に症状は進行し、51歳の時に認知症の診断を受けました。

現在は、「認知症の本人の思いを皆さんに知ってほしい」と講演や雑誌、新聞に発表するなどしています。

Sさんの滋賀県での講演原稿を紹介します。

1.私の困りごと

1)毎日することがなく、生活に張りがない。

1.日によっては何もする気力が起こらない。

2.することがなく虚無感に襲われることもある。

3.テレビに興味がなくなり、何もせずにぼけーと過ごすこともある。

4.気力にむらがあり、読書も、パソコン入力もできないこともある。

2)方向や場所がわからなくなる。

1.よく利用する駅で、例えば新宿駅南口改札に行くにも、真ん中の車両に乗ると電車を降りてどちらの方向にむかって歩くいたらよいかわからなくなった。

2.よく利用する飲食店の場所が分からなくなった。

3.見知しらぬ飲食店では、トイレがどこにあるか分からなくて案内してもらうが、帰りも案内されなければ席に戻れないこともある。

4.行ったことのない駅では、改札口からどんなに近い場所でも、どちらに歩いたらよいかわからない。

3)記憶の障害

1.名前が覚えられない・思い出せない

・毎週会っている教会員の名前が出てこない。

・新しくお会いした人の名前が覚えられない。

2.糖尿病を患っているが、インシュリンの管理では・・・

・     血糖値を測り忘れる。

・インシュリンを打ち忘れる。

・インシュリンの量を正しく設定したかどうか覚えていないので不安になる。

・血糖値測定に使う針を新しい針に取り換えたかどうか覚えていないので不安にな

る。

3.物を置いた場所を忘れる

・重要な書類をなくすことが多い。

・実印をなくました。

・郵便物をどこに置いたかわからなくなります。

・1日のうち何度か携帯電話をどこに置いたかわからなくなり探し回る。

・腕時計、名刺入れ、携帯電話、財布などを定位置に置くことができず、探すのに

時間がかかり、約束の時間に遅れることもありました。

4.ガスを使用している時にガスコンロが視界から消えると、ガスを使用していることを忘れてしまう。

ガスの使用時は、そこを離れないようにしています。

5.テレビをみながら風呂のお湯はりをしていると、お湯はりをしていることを忘れてしまう。

6. 予定を覚えていることが出来ず、ダブルで予定をいれることがある。

7.外出時のトラブル

・財布をどこにしまったかが分からなくなる。

・軽井沢に行ったときは、特急券をどこにしまったかわからなくなった。

・よく行く場所でも周りをよく注意していないと、通り過ぎてしまう。(福音自由教会

へ行く時など)

・大宮から軽井沢に行く場合、長野行きと新潟行きの新幹線が同じホームより出発するが、構内アナウンスを聞いてもすぐに忘れるので、乗ってから不安になりました。

8.パソコン使用時

・メールの書き方がおかしい。普通は挨拶文から書き始めるのだが、いきなり要件を書いている。

・ワードで変換された文字が正しいかどうかわからない。

9.音がうるさく感じられることが多い。

以上のことが困るできごとと、生活にハリを感じられなくなる事柄です。

2.現在でもできること

1)パソコンや携帯電話を使いこなすことができる。

1.CD音楽をパソコンに取り込むことができる。

2.パソコンに外部スピーカをとりつけて音楽をきくことができる。

3.ICレコーダのデータをパソコンに移しデータにコメントを付加してパソコンより録音データを聞くことができる。

4.パソコンで、行きたい場所の最寄り駅や乗り換えルート、到着時刻などを調べることができる。計算ソフトエクセルを使い、家計簿、貯金の管理ができる。

5.ワードで文章を書くことができる。

6.パソコンでメールやインターネットが使える。

7.携帯電話を使いこなし、写メールを送ることができる。

8.パソコンを使って、スケジュール管理ができる。

2)一人で外出できるところもある

1.埼玉県立大学に一人で行き、アートセラピーで絵画を描いたり、陶芸作品を作ることができる。

2.神代植物公園、新宿御苑、旧古川庭園に一人で行くことができ、園内で迷うことなく楽しむことができる。

3)一人でいけないところは、サポートしてくれる人を見つけて外出や旅行ができる

1.教会の人と旅行を楽しむことができる

2.講演先では、観光地などを案内してもらい、名所などの観光を楽しむことができる

3.一人で行けない場所へは、自分でサポーターを手配し、最寄駅でサポーターと待ち合わせて外出することができる

4)できないことは、断ることができる

5)インシュリン注射を打つことができる。

6)薬の管理ができる。

お薬カレンダーを使い、カレンダーの今日の枠にお薬が残っていれば、お薬を飲み忘れを目で確認することができる。

インシュリンの注射針をお薬カレンダーにセットして、お薬カレンダーに針があるかどうかで注射したかどうか、目で確認している。

7)自分の意思や、考えを人に伝える事ができる。

8)昭和の歌謡曲なら歌詞をみて歌うことができる。

3.人がいきいきと生きていくためには

いきいきと生きるためには、衣食住が足りているだけでは十分ではありません。

社会の一員として、何かの役割をもちたい。

社会の一員と認められたく、仕事がしたい。

認知症になっても、仕事を持って働きたい。

働いたからには、少しでもいいから賃金をもらい、自分にもできることがまだあると自信をもちたい。

賃金はもらえなくとも、駅,公園の清掃のボランティアなど、人の役ににたてることを通してして人は自分の存在理由を確かめたい。

認知症になっても、できることをして、存在理由を確かめながら生きていきたい気持ちは、普通の人より人一倍強いです。

これからは、重度の人の介護だけでなく、軽度の認知症の人がいかに楽しく生活できるか、どのように生活支援をしていくかが、今後の課題であると思います。

アートセラピーで絵も描きたい。

沖縄旅行もしたい。

演劇やコンサートにも行きたい。

スポーツが好きな人は、家の外に出てスポーツもしたい。

4.認知症の人が豊に生きがいをもって生きるために、地域はどう変わるべきか

認知症の人が生き生き豊かに暮らすには、介護の通所介護施設やグループホームや医療の通所リハビリ施設や病院などに閉じ込めるのではなく、社会に出て行き、買い物をしたり、外食をしたり、喫茶店でコーヒーを飲みながらおしゃべりをして、認知症になる前と変わらに暮らしができるのが望ましい。

そのためには、まず、認知症という病気を正しく理解してもらい、認知症になっても暮らしやすいやさしい社会であることが重要になります。例えばレジでお金を払うに時間がかかってもせかせるのでなく思いやりを持ちゆっくり待っていただきたい。

そのためには駅、スーパーの支払窓口に高齢者、障害者、認知症本人の優先窓口を設けてもらいたい。

スーパーでは立ち止まり何かを探しているようなときは、何かお困りですかと声をかけてもらいたい。

認知症の人の中には、自分の感情をコントロールする能力が低下して、不当な扱いを受けると(いやな言葉と感じる時)我慢することなく大声を出したり、つついたりすり人もなかにはいるが、全ての認知症の人とが、そうするはけではない。

私は、今は感情をコントロールでき、普通の人と同じようにふるまうことができます。

認知症の人は、何か言われても反応をするまで時間がかかってしまい、『言っても通じない』と誤解されやすいが、時間をかければ十分言葉を理解する能力を持っているので、早口でまくしたてるのではなく、ゆっくり、時間をかけて伝える必要がある。

また、言葉でうまく表現できないこともあるので、何が言いたいのか、何を話したいのかと相手の気持ちを考えながら耳を傾けてほしい。

認知症の人を特別な人とみるのではなく、物事を理解するのに時間かかる人だと認識する知識をもってもらいコミュニティの一員として受け入れられることが大切であります。

5.介護職に伝えたいこと望むことはなにか。

1)認知症の症状がかなり進んでも、認知症本人を何もわからない人と考えないでほしい。

言葉で自分の状態を表現できなくともその人の顔の表情や態度から、その人の快,不快を読み取れ、生活支援ができる人であってほしい。

2)自分の気持ちや感情を言葉に表せず、暴力を振るう人もいるが、すべての認知症の人が周辺症状と呼ばれる症状があらわれるのでないことを心にとめてほしい。

・適切な介護をすれば、笑顔で暮せるようになる。

・周辺症状は認知症本人からの訴えであるので、本人の声に耳を傾けてほしい。

言葉でうまく伝えられない人もいるので、顔つきで判断してもらいたい。

・周辺症状には必ず原因があるので、それを見極めてから支援又は介護してもらいたい。

・周辺症状が出たときには、どんな状況で起きたのかを記録しておき、できるだけおきないような環境を保つように努力をしてもらいたい。

・周辺症状を問題行動ととらえるのではなく認知症本人が今受けているサービスへの不満の意思表示と受けとめてほしい。

3)認知症になると、できなくなることも多いが残された機能も多い。

・残される機能は、人によって非常に異なる。

・できないことばかりに目を向けるのでなく、できることを見つけて、認知症本人が自信を持って生きるように助言してもらいたい。

・認知症本人のできないことではなくできることを見つけて、張り合いのある生活を支援することが仕事であると自覚してもらいたい。

・できることとできないことをしっかり見抜き、できることまで支援しない配慮をもってほしい。

・認知症にはいろいろなステージがあり、日によっては同じことでもできるときとできないときがある。本当にできないのか、意欲がないのかをみきわめてもらいたい。

気分が乗らないときは、無理をさせないでほしい。

4)介護を受ける人の生活歴を知り、これからもその人らしく生きていくために、月に1回ぐらいは認知症本人の話にじっくり耳をかた向け、何がしたいのか、どのように過ごしたいのかなど確認する時間をもってもらいたい。

5)毎日、認知症本人の名前を呼び挨拶をして、なじみの関係を作り、認知症本人から信頼される介護者になってもらいたい。マニュアル的な機械的な挨拶でなく、心のこもった挨拶をしてもいたい。

6)認知症本人を特別な人と考えず、特別な人間として接するのではなく、あくまでも人格のプライドも持っている一人の人として接してほしい。

7)認知症になっても人間的に劣ると考えない。

劣ると考えて接すると態度に現れ、認知症本人が不愉快に感ずることも起こる。

認知症になっても記憶障害は起こるが、感情障害は起こらない。

不快な感情の気持ちはいつまで残る。

認知症本人が不快な介護を受けていると感じると介護者と良好な関係が築けない。

8)予定を早めに伝えすぎると忘れてしまったり、不安になったりするので、ゆっくり、適切な時刻に知らせる。

9)本人が使い慣れた言葉で、わかりやすく話してほしい。

認知症の人によっては、早口や長い文章で話しかけられると聞き取れなかったり、言葉の意味を理解できないこともあるので、その人の症状にあった声かけ・話をしてほしい。

10)同じことを聞かれても、面倒くさがらない。

なぜ同じ話をするのか。例えば、忘れてしまって何度も聞くのか、不安で何度も確認しているのか、相手の気持ちになって考えてほしい。

11)古い認知症の先入観を捨てて、認知症本人にも必ず誇りがあり、誇りを傷つけない接しかたをしていただきたい。

12)愛(忍耐)を持って接してもらいたい。

愛とは

理解する- 愛とは相手の思い、心、痛み、願い、訴え、相手のすべてを理解しようとします。

思いやる- 愛は相手と同じ立場に立って、喜び、悲しみを共に感じようとします。

受け入れる- 愛は相手のありのままを受け入れようとします。

存在そのものを受け入れるのです。それも無条件です

犠牲を払う- 愛はいつも愛する者のために、犠牲を惜しみません。

6.介護職にしてもらいたくないこと。

1)ごまかしたり、うそをついたりすること

たとえば、奥さんが入院して、施設に預けられているある男性は、夕方になると妻が心配するから「家に帰る」とそわそわする時、奥さんはすでに病院で亡くなられでこられなくなったとき、奥さんは旅に出ているからこられないと嘘をついたりするとき、いつまでも奥さんに合わせてくれないことで本人が職員に不満をもつたり、不安になってしまうので素直に奥さんが亡くなったことをつげ、最初は受け入れないかもしれないが、奥さんの写真をそばにおいて、「奥さんは天国でみまもっていますよ」と真実を告げる、最初はショックを受けるが、本人乗りこえる力を信じて悲しみに共感して、職員が動揺することなく毅然とした態度で臨むことが大切である。

2)施設の職員が、時間がないという理由で認知症本人ができることを代わりにやってしまい認知症本人のできることまですること。

やろうとする意欲と機会を奪いその状態が長くつづくと、やれることもできなくなる。

3)子供程度の能力や経験しかないように扱う。

4)きちんとした人間でないというレッテルを貼ること

5)責めたり、非難をあびせる。

6)認知症の人によっては(言葉に対して認知程度の軽度のコミュニケション能力が十分ある人)、本人のプライドを傷つけるようなゆっくり話したり単純な話し方をしない。

普通に話しても理解できる人もいる。

7)何か認められないことをしたからという理由で、仲間外れにしたり追いやったりする・

8)気持ちを無視したり、真剣に受け立ってもらえない。

9)権力や脅しで心配させたり、不安にさせる。

10)生きた、感情のある人ではなく、物や動物のように扱う

11)頼んだことを、無視してやらない。

12) 認知症の人の話を真剣に聞かない。

13)介護職員側に問題があるのに、認知症の人に責任を転化する。

7.不幸にして、認知症になった時のために、どんな準備をすればよいか。

1)まず、記憶力に障害を受けるかつ漢字が書けなくなり、昨日どのように過ごしたか思いだせなく、記憶の連続性がなくなり、不安になるのでパソコンで,普段から日記をつける習慣をつける。

2)お釣りの計算できなくなるので、カードで買い物をするように、クレジットカードを用意する。カードの支払明細が届いたときに備えて、5000円以上の高額の買い物をしたときには、日付と買った商品の名前と金額を入力して、確かに買いましたと確認ができるようにする。

3)認知症になるとできなくなることが多くなるから、自分を卑下しがちになるので人間の価値は、その人が何ができるか有用性で決まるのではなく、聖書にかかれているように、何もできなくとも、尊い存在であると言う信仰を持つ。

4)予定を覚えられなくなるので、パソコンでスケジュールを管理するように普段かパソコンに予定を入力しておく。(OUTLOOKを使うと便利です)

5)電話だと聞いた日時をすぐに忘れるので、メールでやり取りできるように、メールの操作方法を覚え普段からメールでやり取りをする。

6)家計簿としてエクセルで月別項目別に数字を入力すれば、使った金額の合計が表示される表を用意しておく。

7)普段からなんでも話せて、食事、演劇、コンサート、旅行にいく友達を多く待つ。

8)料理のレシピの手順を時系列で書く。同時にするのではなく、これが終わったらこれと、時系列で書く。

9)愛読書や何回きいても飽きないCDを選んでおく。

私の愛読書は新約聖書でうたは童謡、讃美歌をきいています。本が読めないときのために、信州の写真集、星野富弘花の詩画集を用意しています。

10)頭をあまり使わない(判断力を必要としない)、スポーツ(散歩、テニスなど)、写真、絵画、美術鑑賞、演奏、カラオケなどの趣味を持つ。

11)何ができなくとも、自分は価値がある尊い存在であるという信仰を持つ。

12)自分に自信をもてる、聖書のことばを書き出しておく。

「私(神)の目には高価で尊い、私はあなた愛している(イザヤ書)」

自分が気にいった、言葉を聖書の中から書き出して、読みか返しています。

13)財産管理 成年後見制度について学んでおく。

14)自分史をまとめておく。

15)思い出のアルバムをまとめておく。

16)普段食べている食事の写真をとりまとめておく。へルパーさんに、料理を頼む時便利である。

17)食事、運動に注意して、生活習慣病(糖尿病、高血圧)に注意する。生活習慣病を患い、認知症になると、インシュリンの管理、薬の管理が大変である。

パソコンが使えない場合

・毎日に日記をつけ、わからない漢字は国語辞典で調べる習慣をつけておく。

・予定をあまりいれない。(約束を忘れないため)

・カレンダーには月3件までの予定を書き込み、注意しなくてみてわかるよいにする。

(予定多く書き込みと文字として認識しない)

8.どう生きるか

認知症になると、できなくなることも多いが残された機能も多い。残される機能は、人によって、非常に異なります。

自分の気持ち感情を言葉に表せず、暴力を振るう人もいますが、全部の認知症の人が周辺症状と呼ばれる症状が現れるのではありません。

人間の価値を有用性だけで価値がきまるのでなく、人間は自分で生きているのではなく、神様によっていかされているので、自分は認知症になって無価値の存在だと卑下したりする必要はありません。

失われた機能に目を向けるのではなく、残された機能に目をむけて生きることが大切である。

私は毎週教会に通い、礼拝に出席して心の平安を得ていますので、将来への不安はありません。

私は、認知症になって不便なことは増えましたが、決して不幸ではありません。

次の聖書のことばを信じて試練をのりこえてきました。

あなたがたの会った試練はみな人の知らないようなものではありません。神は真実なかたですから、あなたがたを耐えるこのできないような試練にあわせるようなことはなさいません。むしろ、耐えることのできるように、試練とともに、脱出の道も備えてくださいます。

コリント人への手紙 第一 10章13節

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