支部だよりにみる介護体験
富山県支部版(09年10月号No.351)
残された能力を再確認して 病名を告知されて10年
富山県支部 大井久子
この10日で夫は75歳になりました。病名を宣告されて10年目に入ります。早く気がついて薬を飲んだせいか症状は色々と現れましたが、介助すれば生活に支障のないこともあってか、ひどい、つらいと思うようになったのは6年目ぐらいからでしょうか。
昨年の夏ごろよりオシメになりました。
その時ぐらいから布団から起きようとする思いもなくなりました。私が腰にベルトをして起こしていたので、知らず知らずに歯をくいしばっていた結果、上下の歯が磨り減っているからベッドにしたほうがよいと、歯科の先生に言われました。今まで訪問看護師にベッドは危ないと言われ、布団を敷いての生活でしたが、腰痛、顔面神経痛、こんどは歯かと迷いながらベッドにしました。
オシメ、ベッドと生活の変化での周辺症状はSOSだった…
介護する側にとっては電動式のベッドは楽で喜んでいたのも何日間で、夫はベッドに入ってもすぐ起き上がり、また横にさせるの繰り返し。挙句の果てはベッドの上に立ち上がり、悪戦苦闘の何十分でようやく寝つく。
朝は安全柵をはずすと飛び下りて、隣近所に聞こえる大きな声で歩き回るという状態が続く。ベッドから下りたい必死さで、4年くらい前まではドア、玄関の戸は開けられなかったのが、開けて外に出ようとする。足どりも早い。自分で起きようとしなかったのに起きる。「何だできるのか、これが残された能力か」と再認識した出来事になりました。日常でもイライラして興奮状態も出る。毎日毎日のことですので私も疲れてきました。「俺はベッドはいやだ」のSOSではないかと思うようになり、足も強くなり起き上がれるのも判ったので、ベッドを止めて布団にもどしました。不思議と穏やかになり、薬も必要なくなりました。
籠の鳥と珍風景
しかし、以前は起き上がれなかったので、寝てもらってちょっと間の外出はしていたのですが、今はいつ立ち上がって歩き出すかと気になって外出できなくなり、籠の鳥の状態です。座るということを忘れるのか夕暮れ症候群での徘徊でしょうか、ただただ家の中を歩き回り、転倒して骨折などしないように私も後ろから付いております。食事だからと椅子に座らせると寝てしまい口を開けないので、夕食も歩きながら一口づつ食べさせ、私も食べたのやらどうやらで8時ごろに二人とも疲れきって寝る毎晩です。珍風景です。
ありのまま受け止めてあげよう
朝、何時だから起きなければとの思いをなくし、夫が自分で起きようとするまで、声も手もかけないことにしました。これまでは私の都合を優先した介護でしたが、形にはめず病人のありのままを受け止めてあげようと、ベッドの件で気づかされました。
一日のリズムができ、暮らしも落ち着き、現状が維持できたらとの思いで毎日を過ごしております。この間、電話で妹に“ぐち”めいたことを話していたら横からそんなこと言うなよとの言葉に「お父さん解るんだ」と残された能力かとうれしかったです。私の場合は頑張らざるを得ない介護ですが、どんな状態になっても受け入れられる根性が身に付きました。
2009年12月25日発行会報「ぽ~れぽ~れ」353号より