認知症ケアの今 その人らしさの追求
普通の暮らしを取り戻すための10の基本ケア
社会福祉法人 協同福祉会 あすなら苑 苑長 大國康夫
■ 普通の暮らしができるよう介護の質を高めたい
なぜ、私が「10の基本ケア」にこだわったのかと言いますと、お年寄りが病院から自宅に帰ってくるのが少ないのは私たち介護職がプロとして、家族やケアマネに認められるような力量が備わっていないことが原因であり、自信をもってこんなケアをしますから、自宅に帰ってこられても、安心して生活できますと提案できるようになることが私たちの課題だと思ったからです。また、施設に入居しても普通の生活が再建できるようにすることが、課題だと考えています。
お年寄りが住み慣れた街で最期を迎えたいというささやかな望みを叶えることさえ、私たち介護職は十分にできていないのが現状です。しかし、せめてこの奈良に住むお年寄りだけでもその望みが叶えられるようにしたいと思い、介護の質を高め、介護サービスの量を増やすことにチャレンジしています。
■ 「10の基本ケア」とは
私たちは在宅や施設でのケアの実践の中での失敗を教訓に「10の基本ケア」をつくってきました。当会もスタッフが250人を超えるようになりましたが、「10の基本ケア」の実践を続けるなかで、お年寄りが普通の暮らしを取り戻すことができてきました。また、最期を看取るとき「あなたと知り合えてよかった」と言われるようなスタッフも育っています。安心して頼りにされる仕事であることに誇りをもち、しっかりと磨きをかけていきたいと思います。
「普通の暮らしを取り戻すための10の基本ケア」とは、お年寄りが病気になっても障害や認知症になっても普通の暮らしを取り戻せるよう、ケア(支援)体制をつくることです。
1.換気をする(衛生管理)
2.床に足をつけて座る(座位保持、移乗方法)
3.トイレにすわる(排泄ケア)
4.あたたかい食事をする(食事ケア)
5.家庭浴に入る(入浴ケア)
6.座って会話をする(認知症ケア)
7.町内に出かける(ノーマライゼーション、社会性を取り戻す)
8.夢中になれることをする(個別機能訓練)
9.ケア会議をする(トータルチームケアで生活意欲をつくる)
10.ターミナルケアをする(最期まで関わる)
「10の基本ケア」の順番には意味があります。
1から順番に行い、10でトータルケアになります。ベースとして二つを据えています。
1番目。換気とは外の自然の空気を取り入れて、部屋の空気を清浄に保つことをいいます。生きた空気を利用者に吸ってもらうことが、健康を保つための介護・看護の第一歩と考えます。
2番目。椅子に座ることができれば、日常生活動作(ADL)の自立ができ、尊厳が守れます。
3番目。どんなに忙しくてもトイレ誘導は最優先のケアになります。
4番目。あたたかくおいしい食事を提供していますか。正しい姿勢で食事ができる椅子、テーブルなどを用意していますか。車椅子のまま食事介助をしていませんか。なぜ重要なのかを問題提起しています。
5番目。当会でも機械浴での事故から、家庭浴に変えるまで多くの時間と労力が要りましたが、重度(介護度4、5)のお年寄りから「久しぶりに、フロに入った」と喜ばれるようになりました。
6番目。私たちは介護職ですので、「認知症」の病気を治すのを目的にしません。障害と付き合い生活介護をしていきますので、オムツをやめて、心の傷にしっかり付き合っていきます。認知症の周辺症状はプロの介護職はなくすことができます。しかし、生きる意欲として、自己確認や自己主張であると思いますので、1割くらいは周辺症状を残しておくことが、個性を大事にすることだと思います。
7番目。障害や認知症があってもお出かけを行い、社会性を取り戻せば、最期まで生きる力になります。
8番目。生活に「遊び」を取り入れて生活の幅を持たせることです。
9番目。デイサービス、訪問介護で知り合った利用者と重度になっても最期まで関われるようなケアプランをつくります。
10番目。最期まで住み続けたい町で暮らすことができるように、介護サービスを用意したいと思います。
1つ1つの項目はさまざまな意味を含んでいます。当施設の18人のスタッフが本を書きましたので、ぜひ読んでいただき10の項目の意味を理解して、介護の基本を学んでほしいと思います(下記参照)。
たくさんのお年寄りと最後まで関わりがもてることができるように、これからも努力していきます。みなさんと共に悩みながら成長していけたらと思います。介護で悩んでいる方のメールなどをお待ちしています。
『あなたの大切な人を寝たきりにさせないための介護の基本
あすなら苑が挑戦する10の基本ケア』社会福祉法人協同福祉会 編
発行/クリエイツかもがわ 定価1,890円(税込み)
(おわり)
2009年11月25日発行会報「ぽ~れぽ~れ」352号より