No1.認知症は人ごとではない-高まってきた社会的関心
当会副代表理事の杉山孝博Drによる連載です。全52回、毎週日曜日と水曜日に新しい記事を追加します。
公益社団法人認知症の人と家族の会副代表理事・神奈川県支部代表
公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問
川崎幸クリニック院長
杉山 孝博
「認知症(当時は、『ぼけ』)は、今介護している私たちだけの問題ではないんです。これからたくさんの人たちがかかわらざるを得ない大きな問題です」
28年前、私が社団法人「認知症の人と家族の会」にかかわり始めたとき、一人の介護者が話した言葉を今でも思い出す。
当時、認知症に対する社会的関心は極めて低く、デイサービス、ショートステイなどの介護サービスは全くなかった。特別養護老人ホームでは認知症があると入所させてくれなかった。行政には、認知症の相談窓口すらなかった。家族に認知症の人がいることを話したら、親戚から、「身内の恥をさらした」といって非難された。
今では、認知症に関しては使い勝手が悪いといわれながらも介護保険サービスが利用でき、「認知症を知り地域をつくるキャンペーン」が全国的に展開されて、社会的関心が高まっている。
認知症高齢者は約2百万人に達し、要介護認定者の2人に1人、80歳以上の高齢者の4人に1人が認知症になっていると言われている。認知症高齢者のひとり暮らし世帯が増加し、認知症の人が認知症の人を介護する「認認介護」が現実としての問題になるなど、認知症の問題が身近になってきたことを感じざるを得ない状況がでてきた。
自分自身が認知症になるかならないかは別としても、家族も含めれば、認知症は私たち一人一人の問題になってきているのは間違いない。
それでも、私たちは認知症を人ごととして見てはいないだろうか。「自分が自分でなくなる」という恐怖感、家族に大きな負担をかけるという遠慮、治療困難な進行性の病気であるという絶望感などが相まって、認知症を自分自身の問題として考えたくない気持ちを起こさせているのだろう。
認知症を正しく理解する、疑いが出てきたら早期診断・早期治療を受ける、介護負担を軽くするため介護サービスを積極的に利用する、専門職や介護体験者などと交流するなど、前向きに対応することにより、介護の混乱が軽くなり、認知症の人の状態も落ち着くことは、私の経験からはっきり言える。
このシリーズでは、認知症の人の世界を理解することを中心として、認知症に関する様々な問題を幅広く取り上げていくつもりである。
杉山孝博:
川崎幸(さいわい)クリニック院長。1947年愛知県生まれ。東京大学医学部付属病院で内科研修後、患者・家族とともにつくる地域医療に取り組もうと考えて、1975年川崎幸病院に内科医として勤務。以来、内科の診療と在宅医療に取り組んできた。1987年より川崎幸病院副院長に就任。1998年9月川崎幸病院の外来部門を独立させて川崎幸クリニックが設立され院長に就任し、現在に至る。現在、訪問対象の患者は、約140名。
1981年から、公益社団法人認知症の人と家族の会(旧呆け老人をかかえる家族の会)の活動に参加。全国本部の副代表理事、神奈川県支部代表。公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問。公益財団法人さわやか福祉財団(堀田力理事長)評議員。
著書は、「認知症・アルツハイマー病 早期発見と介護のポイント」(PHP研究所)、「介護職・家族のためのターミナルケア入門」(雲母書房)、「杉山孝博Drの『認知症の理解と援助』」(クリエイツかもがわ)、「家族が認知症になったら読む本」(二見書房)、杉山孝博編「認知症・アルツハーマー病 介護・ケアに役立つ実例集」(主婦の友社)、「21世紀の在宅ケア」(光芒社)、「痴呆性老人の地域ケア」(医学書院、編著)など多数。