No.12–介護のコツは、ほめること-介護者は認知症になるべし

杉山Drの知っていますか?認知症当会副代表理事の杉山孝博Drによる連載です。全52回、毎週日曜日と水曜日に新しい記事を追加します。


公益社団法人認知症の人と家族の会副代表理事・神奈川県支部代表

公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問
川崎幸クリニック院長

杉山 孝博

「本人の言うことを受け入れて、穏やかに対応するのがよいと先生は言われますが、介護する身にもなってください。言うことを聞かず、迷惑なことばかりする人にいい顔はできませんよ」と多くの介護者は訴える。

それに対して、私は「毎日慣れない介護をし続けなければならないあなたの気持ちはよくわります。しかし、この時期は介護者にとっても本人にとっても一番つらい時期なのです。良い感情を与えるようにしたほうが結局、あなたにとっても楽になるはずです」と答えている。

介護に慣れてくれば、多くの家族は、感情を荒立てさせない介護ができるようになるが、少しでも早く楽な介護をするには、4つのコツがある。

第1のコツは、「ほめる、感謝する」。どのようなことをされても、「上手ね」「ありがとう。助かったわ」などと言い続けていると、次第に本人の表情や言動が落ち着いてくる。

ぬれた洗濯物を取り込んでいるのを見て「お母さん、乾いてないのに取り込んで!洗いなおさなければいけないでしょう。どうしてこんなことをするの」と言うと、「手伝ってあげたのに、怒るなんて、嫌な人だ」となってしまう。

それよりも、「お母さん、手伝ってくれてありがとう。後は私がしますから、居間でお茶でも飲んでいてください」と言ったほうがよい。

第2は、「同情」で、「ああ、そう」「そういう事があったのですか」「大変ですね」のように相づちをうつこと。

多くの家族・介護職は正しく答えなければいけないとまじめに思って、教え込んだり、聞き返したり、訂正しようとする。それでうまくいくのであればそれでよいが、くどい人、うるさい人、嫌な人ととらえられる場合も少なくない。

それよりも、いかにもよく聞いているような印象を与えながら、適当に相づちを打つほうが楽であるし、本人も穏やかになる。しかし、本人が正気にかえって、「私の言うことを聞いてくれない」と言うときには、「うっかりしてごめんね」などと、とぼければよい。

施設などで、認知症の二人がいつまでも楽しそうに話している光景はよく見られるが、互いが自分の言いたいことを言って、話の内容が全く合っていない場合はよくある。

「うん、うん」「そうだ」とお互いに相づちをうっているから楽しいのである。だから、私は介護者に「介護者はすべからく認知症になるべし!」とも言っている。(続)


杉山孝博:

川崎幸(さいわい)クリニック院長。1947年愛知県生まれ。東京大学医学部付属病院で内科研修後、患者・家族とともにつくる地域医療に取り組もうと考えて、1975年川崎幸病院に内科医として勤務。以来、内科の診療と在宅医療に取り組んできた。1987年より川崎幸病院副院長に就任。1998年9月川崎幸病院の外来部門を独立させて川崎幸クリニックが設立され院長に就任し、現在に至る。現在、訪問対象の患者は、約140名。

1981年から、公益社団法人認知症の人と家族の会(旧呆け老人をかかえる家族の会)の活動に参加。全国本部の副代表理事、神奈川県支部代表。公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問。公益財団法人さわやか福祉財団(堀田力理事長)評議員。

著書は、「認知症・アルツハイマー病 早期発見と介護のポイント」(PHP研究所)、「介護職・家族のためのターミナルケア入門」(雲母書房)、「杉山孝博Drの『認知症の理解と援助』」(クリエイツかもがわ)、「家族が認知症になったら読む本」(二見書房)、杉山孝博編「認知症・アルツハーマー病 介護・ケアに役立つ実例集」(主婦の友社)、「21世紀の在宅ケア」(光芒社)、「痴呆性老人の地域ケア」(医学書院、編著)など多数。


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