No.14–こだわって、抜け出せない-原因への対応が有効
当会副代表理事の杉山孝博Drによる連載です。全52回、毎週日曜日と水曜日に新しい記事を追加します。
公益社団法人認知症の人と家族の会副代表理事・神奈川県支部代表
公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問
川崎幸クリニック院長
杉山 孝博
認知症には「一つのことに集中すると、そこから抜け出せない。周囲が説明したり説得したり否定したりすればするほど、こだわり続ける」という特徴もある。これを「こだわりの法則」と呼ぶ。
「買い物に行くと毎日同じものを買ってくるし、夕方になると家に帰ると言ってでかけようとします。毎日毎日繰り返されるのでたまりません。この状態がいつまで続くかと思うとますますイライラしてきます」。この言葉に共感しない介護者はいないだろう。
こだわりに対してどのように対応したらよいだろうか。まず丁寧に説明する、説得する、駄目なものはダメと禁止する、という普通の方法を試みる。この方法でうまくいくならばそれでよい。
しかし、説明してもすぐ忘れて効果がない、説得に一切応じない、駄目というと興奮する、という反応であれば、別の方法が必要になる。
本人のこだわり続ける気持ちを理解して、こだわりを軽くするにはどうしたら―番よいのかという観点で、割り切って対応するのがよい。それには次の八つの方法がある。
①こだわりの原因をみつけて対応する②そのままにする③第三者に登場してもらう④場面転換をする⑤地域の協力、理解を得る⑥一手だけ先手を打つ⑦本人の過去を知る⑧長期間は続かないと割り切る―という方法だ。
それぞれ、具体例を通して考えてみよう。まずは「こだわりの原因をみつけて対応する」。
認知症の人がこだわりを示すとき、その背景となる原因が見つかる場合がある。原因に対して適切な手をうつことで症状が軽くなることがある。
「夫が私に浮気妄想をもつようになりました。先日、たまたま息子と一緒に帰宅したら息子と関係しているとまで言い出しました。どうしたらよいでしょうか」
「何かきっかけはありませんでしたか」
「こころあたりはありません。ただ、物忘れが目立ってきたので、預金通帳を私が管理することにしましたが、最近、通帳を返せと強く言ってくるようになりました」
「大事な財産を妻が勝手に使っている、浮気しているに違いないとご主人は考えたと思います。紛失しても再発行すればよいので、こだわりの原因である通帳を渡したらどうでしょう」。
1ヶ月後、相談者が再度受診して「先生の言う通りにしましたら、浮気妄想がすっかりなくなりました。本当に認知症の症状だったのですか」と報告してきた。
杉山孝博:
川崎幸(さいわい)クリニック院長。1947年愛知県生まれ。東京大学医学部付属病院で内科研修後、患者・家族とともにつくる地域医療に取り組もうと考えて、1975年川崎幸病院に内科医として勤務。以来、内科の診療と在宅医療に取り組んできた。1987年より川崎幸病院副院長に就任。1998年9月川崎幸病院の外来部門を独立させて川崎幸クリニックが設立され院長に就任し、現在に至る。現在、訪問対象の患者は、約140名。
1981年から、公益社団法人認知症の人と家族の会(旧呆け老人をかかえる家族の会)の活動に参加。全国本部の副代表理事、神奈川県支部代表。公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問。公益財団法人さわやか福祉財団(堀田力理事長)評議員。
著書は、「認知症・アルツハイマー病 早期発見と介護のポイント」(PHP研究所)、「介護職・家族のためのターミナルケア入門」(雲母書房)、「杉山孝博Drの『認知症の理解と援助』」(クリエイツかもがわ)、「家族が認知症になったら読む本」(二見書房)、杉山孝博編「認知症・アルツハーマー病 介護・ケアに役立つ実例集」(主婦の友社)、「21世紀の在宅ケア」(光芒社)、「痴呆性老人の地域ケア」(医学書院、編著)など多数。