No.17–こだわりに説得や否定は禁物-関心を別に向けるのがコツ
当会副代表理事の杉山孝博Drによる連載です。全52回、毎週日曜日と水曜日に新しい記事を追加します。
公益社団法人認知症の人と家族の会副代表理事・神奈川県支部代表
公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問
川崎幸クリニック院長
杉山 孝博
認知症の人には「一つのことにこだわり続け、説得されたり否定されたりすることは、こだわりを強めるだけである」という特徴があって、介護者は苦労している。
そんなときの対応のコツは「場面転換をする」。別のことに関心を向けさせて、認知症の症状を軽くする方法である。
夜中に寝ないで大きな声を出す人に対して「真夜中だし、近所の迷惑になるから静かにしてください」と説得しても寝てくれない。
それよりも「お父さんの大好きなおまんじゅうがあるので食べませんか。隣のおばさんが今日お土産に持ってきてくれたの。おいしいうちに食べましょうよ」と上手に勧めて食べさせる。
その後で「おいしいものを食べると眠くなるわね。私は休みますから、お父さんも寝てくださいね」というふうに話を持っていくと寝てくれることもある。
「夜中に食べさせるなんて」と心配し遠慮することはない。目を覚ましているときは、本人にとっては昼間なのだから。
趣味や特技のない人に対して、食べ物は最終的な切り札でもある。本人の好きな食べ物をいつも用意しておいたほうがよい時期がある。
昔の思い出も場面の切り替えに有効だ。いなかの生活、会社での仕事、子育て。戦争体験のある人なら戦時中のこと。本人がいつも話していることがあれば、その話題を持ち出すのがよい。
ただし、話し始めると止まらなくなる場合もあることを覚悟する必要がある。
趣味や本人が関心を持つことに対しては、場面転換しやすい。
「お母さんの好きな歌を聞かせてください」「洗濯物を畳むのを手伝っていただけませんか。お願いします」というように話を持っていくと、興奮やこだわりが一瞬消え、好きな歌を楽しそうに歌い、洗濯物をせっせとたたみ始めることもある。
普通の人であれば、関心を別に向けようとしても、「ごまかさないでよ」と一蹴されてしまうだろうが、認知症の人はコロッと変わりやすいのでやりやすい。
特別養護老人ホームに入所していた認知症の女性が、他の利用者のベッドに潜り込んだり、職員にまつわりついて落ち着かなかった。強い鎮静剤を処方したが、眠らず、よだれ・ふらつきなどの副作用が出てきた。
その女性がおしぼりを上手に畳んでいるのを見て、介護スタッフに、夜もその仕事をするように依頼したらどうかと勧めてみた。そのようにしたら、問題が全くなくなった。
杉山孝博:
川崎幸(さいわい)クリニック院長。1947年愛知県生まれ。東京大学医学部付属病院で内科研修後、患者・家族とともにつくる地域医療に取り組もうと考えて、1975年川崎幸病院に内科医として勤務。以来、内科の診療と在宅医療に取り組んできた。1987年より川崎幸病院副院長に就任。1998年9月川崎幸病院の外来部門を独立させて川崎幸クリニックが設立され院長に就任し、現在に至る。現在、訪問対象の患者は、約140名。
1981年から、公益社団法人認知症の人と家族の会(旧呆け老人をかかえる家族の会)の活動に参加。全国本部の副代表理事、神奈川県支部代表。公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問。公益財団法人さわやか福祉財団(堀田力理事長)評議員。
著書は、「認知症・アルツハイマー病 早期発見と介護のポイント」(PHP研究所)、「介護職・家族のためのターミナルケア入門」(雲母書房)、「杉山孝博Drの『認知症の理解と援助』」(クリエイツかもがわ)、「家族が認知症になったら読む本」(二見書房)、杉山孝博編「認知症・アルツハーマー病 介護・ケアに役立つ実例集」(主婦の友社)、「21世紀の在宅ケア」(光芒社)、「痴呆性老人の地域ケア」(医学書院、編著)など多数。