No.18–「明日はわが身」と理解を-普段の付き合いが大切

杉山Drの知っていますか?認知症当会副代表理事の杉山孝博Drによる連載です。全52回、毎週日曜日と水曜日に新しい記事を追加します。


公益社団法人認知症の人と家族の会副代表理事・神奈川県支部代表

公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問
川崎幸クリニック院長

杉山 孝博

「こだわり」に対する、第5番目の対応の仕方は、「地域の協力理解を得る」というコツもある。

夜間の騒音、ごみ出し、徘徊、隣人への被害妄想など、地域社会とのかかわりをもつ認知症の症状は少なくない。こんな時、家族は、「遠慮」「気兼ね」「陳謝」など、近所への気遣いという重荷を背負うことになる。

「女手一つで苦労して私を育ててくれた母ですから、被害妄想のため私を母がののしった時も、夜間騒いで眠れなかった時も、介護がつらいと思ったこと はありませんでした。しかし、あることがきっかけで隣の家に毎日怒鳴り込むようになって、隣の人から、町を出て行ってほしいと抗議をうけた時、母に死んで ほしいと思いました」

ある介護者が泣きながら語った言葉を今でもはっきり思い出す。

近所への迷惑を考えて、鍵をかけて外出できないようにする、薬を使って興奮を静める、言い聞かせるなどの対応をしてもうまくいかず、混乱を深めることになりかねない。逆に、地域の理解があれば深刻な症状が軽くなる。

「義父が近所の薬局でせっけんを万引きしていることに気付いた

とき、目の前が真っ暗になりました。先生のお勧めによって、石鹸を持ってお店の方に事情を話した。『あんなに元気だった方が認知症になったとは知り ませんでした。大変ですね。私たちも注意しますが、せっけんが見つかったら返していただければ結構です』と言っていただいてほっとしました」

これは私が訪問診療をしていた介護者の体験である。ちなみに、その家では雑貨などをいつもその薬局から買っていたので顔なじみだった。地域でどのような人間関係を築いているかによって、認知症問題の深刻さが違ってくるものである。

「散歩にでて帰ってくると思っていて、徘徊ということが頭になくショックでした。心当たりを捜し警察にお願いした後の連絡待ちの長かったこと」(社団法人認知症の人と家族の会千葉県支部アンケートより)

そんな徘徊も「一人で歩いているのを見掛けたので、声をかけて連れてきました」といった近所の人の目と協力があれば、さらに地域社会の協力で「徘徊SOSネットワーク」がしっかりできていれば、深刻なものでなくなるかもしれない。

「明日はわが身」「お互いさま」という理解が地域に根付いていれば、「認知症になっても安心して暮らせる地域づくり」が可能になると確信している。


杉山孝博:

川崎幸(さいわい)クリニック院長。1947年愛知県生まれ。東京大学医学部付属病院で内科研修後、患者・家族とともにつくる地域医療に取り組もうと考えて、1975年川崎幸病院に内科医として勤務。以来、内科の診療と在宅医療に取り組んできた。1987年より川崎幸病院副院長に就任。1998年9月川崎幸病院の外来部門を独立させて川崎幸クリニックが設立され院長に就任し、現在に至る。現在、訪問対象の患者は、約140名。

1981年から、公益社団法人認知症の人と家族の会(旧呆け老人をかかえる家族の会)の活動に参加。全国本部の副代表理事、神奈川県支部代表。公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問。公益財団法人さわやか福祉財団(堀田力理事長)評議員。

著書は、「認知症・アルツハイマー病 早期発見と介護のポイント」(PHP研究所)、「介護職・家族のためのターミナルケア入門」(雲母書房)、「杉山孝博Drの『認知症の理解と援助』」(クリエイツかもがわ)、「家族が認知症になったら読む本」(二見書房)、杉山孝博編「認知症・アルツハーマー病 介護・ケアに役立つ実例集」(主婦の友社)、「21世紀の在宅ケア」(光芒社)、「痴呆性老人の地域ケア」(医学書院、編著)など多数。


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