No.24–深刻な一人暮らしの認知症-地域の理解と援助の輪を!

杉山Drの知っていますか?認知症当会副代表理事の杉山孝博Drによる連載です。全52回、毎週日曜日と水曜日に新しい記事を追加します。


公益社団法人認知症の人と家族の会副代表理事・神奈川県支部代表

公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問
川崎幸クリニック院長

杉山 孝博

厚生労働省の統計によると、単身の高齢者世帯は約373万世帯と推測されている。65歳以上の認知症の出現率は約9%であるので、単純に計算すると、ひとり暮らしの認知症の人は全国で約34万人いることになる。

もちろん認知症になると一人暮らしが難しくなり、家族と同居したり施設に入所したりするので、この数字のままではないだろうが、かなりの数に上るのは間違いない。

ところで、ひとり暮らしの認知症高齢者介護には次のような特徴がある。

まず24時間の見守りや、生活全体を支える援助が必要だ。生活障害を起こしている自らの状態を認めないため、医療や介護サービスを受けるのを拒否する傾向がある

近隣とのかかわりが不可欠であるのに、そういう人たちとあつれきが生じやすい

一人暮らしの認知症高齢者は一般的に金銭や物に対する執着が強く、身近な人に強い認知症の症状を示す特徴がある。そのためよく世話してくれる民生委員や知人、親せきに「物盗られ妄想」などを示し、そういう人たちがかかわりきれなくなることが少なくない

一方、時々にしか会わない家族に対してはしっかりした言動をするので、認知症の程度が家族に理解されにくい

いわゆる「遠距離介護」のため家族の介護の負担が大きく、栄養摂取不良や不慮の事故などが発生しても発見されにくい、といった問題もある。

ごみ出しや騒音など、社会生活上のルールが守れないためトラブルが絶えなくなり、火の不始末のため火事を出すのではないかと近所から強い懸念が出され、自宅に住めなくなる例が非常に多い。

家の中がひどく汚れていても、食事の支度ができなくても「毎日掃除しています」「栄養を考えて毎日自分で料理しています」と言い張るので、周囲がそれ以上踏み込めなくなるケースも少なくない。危篤に近い状態になって初めて訪問診療を依頼されることもある。

こうした問題を解決するには普段から地域でなじみ人間関係を作ることが必要だ。誰もが一人暮らしの認知症高齢者の問題を理解し、解決のため助け合う地域づくりが、今後重要な課題になることは間違いない。

その意味で、2006年4月の介護保険改定で、地域密着型サービスとして制度化された「小規模多機能型居宅介護」は、一人暮らしの認知症の人の地域ケアという課題の解決を目指す第一歩といえる。


杉山孝博:

川崎幸(さいわい)クリニック院長。1947年愛知県生まれ。東京大学医学部付属病院で内科研修後、患者・家族とともにつくる地域医療に取り組もうと考えて、1975年川崎幸病院に内科医として勤務。以来、内科の診療と在宅医療に取り組んできた。1987年より川崎幸病院副院長に就任。1998年9月川崎幸病院の外来部門を独立させて川崎幸クリニックが設立され院長に就任し、現在に至る。現在、訪問対象の患者は、約140名。

1981年から、公益社団法人認知症の人と家族の会(旧呆け老人をかかえる家族の会)の活動に参加。全国本部の副代表理事、神奈川県支部代表。公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問。公益財団法人さわやか福祉財団(堀田力理事長)評議員。

著書は、「認知症・アルツハイマー病 早期発見と介護のポイント」(PHP研究所)、「介護職・家族のためのターミナルケア入門」(雲母書房)、「杉山孝博Drの『認知症の理解と援助』」(クリエイツかもがわ)、「家族が認知症になったら読む本」(二見書房)、杉山孝博編「認知症・アルツハーマー病 介護・ケアに役立つ実例集」(主婦の友社)、「21世紀の在宅ケア」(光芒社)、「痴呆性老人の地域ケア」(医学書院、編著)など多数。


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