No.25–増えている「認認介護」-80歳夫婦の11組に1組も!

杉山Drの知っていますか?認知症当会副代表理事の杉山孝博Drによる連載です。全52回、毎週日曜日と水曜日に新しい記事を追加します。


公益社団法人認知症の人と家族の会副代表理事・神奈川県支部代表

公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問
川崎幸クリニック院長

杉山 孝博

平均寿命が女性86.05歳、男性79.29歳(2008年)と、長寿社会になった今日の日本では、80歳代の介護者は決して少なくない。

精神や身体にとくに障害がなく、元気に活動できる高齢者の増加しているのが長寿社会の特徴であるので、私は80歳代の高齢者が介護に携われないとは思っていない。

訪問診療や外来で診療している患者を介護している80歳代の高齢者は少なくない。家族の援助や訪問介護、訪問看護、入浴サービスを利用しながら、たんの吸引をはじめ、褥創などの処置、経管栄養の管理まで見事にこなす介護者もいる。

80歳前後の夫婦を考えてみよう。80歳頃の認知症出現率はおよそ20%であるので、夫婦のどちらかが認知症である確率は、0.2×2=0.4、約 40%となり、夫婦ともに認知症である確率は、0.2×0.2×2=0.08、約8%となる。11組の夫婦の1組が、認知症の人が認知症の人を介護する、 いわゆる「認認介護」となる。

認知症とは知的機能の低下によって引き起こされる生活障害であるので、認知症になると生活全般への見守り・援助が必要になる。

夫婦ともに認知症になれば介護どころか生活が成り立たなくなると考えられる。しかし、症状が二人とも同程度ではなく、一人が重く、もう一人が軽い場合が普通だ。介護もある程度できる。

一人が亡くなり、残った人が激しい症状を出すようになって家族が非常に驚いたという話を聞いたことが何度もある。

配偶者の死という環境の変化によって認知症の症状がひどくなったことも確かだろうが、家族に認知症だと気付かれることなく介護あるいは生活が維持できていたこともまた事実だ。

ただし服薬管理、食事、何かあった時の判断などの問題がある。

薬を朝昼晩に分けて間違いなく服薬できるようにする。介護の手順を箇条書きに分かりやすく書いて見やすい所に張っておく。訪問看護師や訪問薬剤師が 必要に応じて電話や訪問をする。もちろん介護保険のサービスを十分利用する。そうすることによって、私はこれまで何組もの夫婦の在宅ケアを支えてきた。

寝たきりの妻と、食道がんはあるものの身体的には元気な夫が、ともに認知症である夫婦の訪問診療を行い、昨年、妻を自宅でみとることができた。

妻は終末期になって食事が取れなくなり、心不全症状を起こした。自宅で点滴を受けながら、妻の妹の献身的な介護のかいあって、自宅での穏やかな最後を迎えたのであった。


杉山孝博:

川崎幸(さいわい)クリニック院長。1947年愛知県生まれ。東京大学医学部付属病院で内科研修後、患者・家族とともにつくる地域医療に取り組もうと考えて、1975年川崎幸病院に内科医として勤務。以来、内科の診療と在宅医療に取り組んできた。1987年より川崎幸病院副院長に就任。1998年9月川崎幸病院の外来部門を独立させて川崎幸クリニックが設立され院長に就任し、現在に至る。現在、訪問対象の患者は、約140名。

1981年から、公益社団法人認知症の人と家族の会(旧呆け老人をかかえる家族の会)の活動に参加。全国本部の副代表理事、神奈川県支部代表。公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問。公益財団法人さわやか福祉財団(堀田力理事長)評議員。

著書は、「認知症・アルツハイマー病 早期発見と介護のポイント」(PHP研究所)、「介護職・家族のためのターミナルケア入門」(雲母書房)、「杉山孝博Drの『認知症の理解と援助』」(クリエイツかもがわ)、「家族が認知症になったら読む本」(二見書房)、杉山孝博編「認知症・アルツハーマー病 介護・ケアに役立つ実例集」(主婦の友社)、「21世紀の在宅ケア」(光芒社)、「痴呆性老人の地域ケア」(医学書院、編著)など多数。


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