No.26–専門医の受診に工夫を-「ドラマ仕立て」が有効

杉山Drの知っていますか?認知症当会副代表理事の杉山孝博Drによる連載です。全52回、毎週日曜日と水曜日に新しい記事を追加します。


公益社団法人認知症の人と家族の会副代表理事・神奈川県支部代表

公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問
川崎幸クリニック院長

杉山 孝博

認知症相談、予防教室、マスコミなどどこでも、早期診断・早期治療の必要性が強調されている。しかし、必要性は理解できていても「自分は病気ではない」と思っている認知症の人を医療機関に受診させるのは大変だ。

本人が自発的に受診を希望するか、本人に説明して納得が得られた上で受診することになれば一番望ましい。だが納得しない場合が圧倒的に多いのが現実だ。

認知症の特徴を理解した上で、いろいろな工夫が必要となる。私の経験から、スムーズな受診のためのコツをまとめると次のようになる。

まず、「精神神経科」には強い拒絶反応がみられるので、「もの忘れ外来」「老年科」「心療内科」「神経内科」などで一般的な診断を受けてから、その延長として認知症専門の診療に移行する

介護者が「私の健康診断に付き合ってください」とお願いする手もある。

診察室に一緒に入り、医師がまず介護者の診察をしてから、さりげなく、「せっかくですから血圧を測りましょうか」というように本人に話をすると、医師の言うことは拒否しない。

この場合、あらかじめ医療機関と連絡を取っておく必要がある。私の経験では、この方法が一番うまくいっている。

病院は嫌だと言う場合には「保健所に健康診断に行きましょう」と誘うのがいい。認知症相談をしているかどうかを確認した上で、保健所に行くように誘う。

「保健所は地域の健康・保健センター」というイメージがあるので、受け入れやすい。ただ、保健所ではコンピュータ断層撮影(CT)や核磁気共鳴画像装置(MRI)などの検査ができず、診断の確定は難しいことを心得ておいてほしい。

信頼を置く、かかりつけ医に「知り合いのよい先生を紹介しましょう」と専門医への受診を勧めてもらう方法もある。あらかじめ家族が事情を説明し協力をお願いしておく。かかりつけの医師に勧められ、紹介状まで渡されると、大部分の人は従うものだ。

頭痛、だるさ、腹痛などの身体症状を訴えるときには、受診を納得させやすい。

担当医には「認知症の症状があるのに検査を受けようとしません。この機会に必要な検査を実施していただけませんか」と依頼しておく。風邪による頭痛であっても「頭の検査をしておいたほうがよい」と医師から言われれば納得するものだ。

こんなふうに「ドラマ仕立て」で受診にもって行くことが有効な方法だ。


杉山孝博:

川崎幸(さいわい)クリニック院長。1947年愛知県生まれ。東京大学医学部付属病院で内科研修後、患者・家族とともにつくる地域医療に取り組もうと考えて、1975年川崎幸病院に内科医として勤務。以来、内科の診療と在宅医療に取り組んできた。1987年より川崎幸病院副院長に就任。1998年9月川崎幸病院の外来部門を独立させて川崎幸クリニックが設立され院長に就任し、現在に至る。現在、訪問対象の患者は、約140名。

1981年から、公益社団法人認知症の人と家族の会(旧呆け老人をかかえる家族の会)の活動に参加。全国本部の副代表理事、神奈川県支部代表。公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問。公益財団法人さわやか福祉財団(堀田力理事長)評議員。

著書は、「認知症・アルツハイマー病 早期発見と介護のポイント」(PHP研究所)、「介護職・家族のためのターミナルケア入門」(雲母書房)、「杉山孝博Drの『認知症の理解と援助』」(クリエイツかもがわ)、「家族が認知症になったら読む本」(二見書房)、杉山孝博編「認知症・アルツハーマー病 介護・ケアに役立つ実例集」(主婦の友社)、「21世紀の在宅ケア」(光芒社)、「痴呆性老人の地域ケア」(医学書院、編著)など多数。


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