No.31–混乱を経て、割り切りへ-正しい理解がポイント
当会副代表理事の杉山孝博Drによる連載です。全52回、毎週日曜日と水曜日に新しい記事を追加します。
公益社団法人認知症の人と家族の会副代表理事・神奈川県支部代表
公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問
川崎幸クリニック院長
杉山 孝博
前回に引き続いて、介護家族のたどる4つの心理的ステップを考えていきたい。
第2ステップは「混乱・怒り・拒絶」だ。
「戸惑い・否定」をしていても、現実には異常な言動が続く。すると家族は、そのような言動に対してどう理解し対応してよいか分かららなくなって、混乱状態に陥る。
丁寧に説明し、教えれば理解するだろうと期待して頑張ってみても、効果が得られない、いくら注意しても同じことを繰り返す、一晩中騒いで眠らせてくれない。
このような状態になると、心優しい介護者であっても「ついいかげんにしてよ。さっき注意したばかりでしょ!」と、怒りの気持ちがわき上がってくる。
さらに介護の成果が一向に得られず、孤立して介護を続けざるを得ない介護者は精神的・身体的に疲労困ぱいして、ついには「とても面倒をみきれない。 このままではわたしも家族も倒れてしまう」「お母さんさえいなければ、どんなに気持ちが楽になるだろう」などと言って、認知症の人を拒絶しようとする。
これが第2ステップの「混乱・怒り・拒絶」である。この段階では介護者の苦悩は極限に達する。日常的な苦労に加えて、この状態が今後何年間続くのかという不安が重くのしかかり、介護者を苦しめることになる。
第2ステップの特徴は、認知症に関する正確な知識もなく、適切な医療や介護サービス護を受けずに介護者が常識的な対応をすることで、かえって認知症症状を悪化させていることである。
介護を「拒絶」しようとしても、親類の援助を得られない、施設に入所できない場合には、介護は続いていく。すると、そのうちに「―生懸命にやってきたけれど、どうも効果がないばかりか、かえって混乱がひどくなってしまう」ということが分かってくる。
そういう段階では、無駄なことはしなくなる。第3ステップの「割り切り、あるいはあきらめ」の境地にいたるのである。
同時に、認知症の人の介護を通して、また本や新聞、「社団法人認知症の人と家族の会」などを通していろいろな情報を得ることで、さまざまな介護のテ クニックにも次第に精通してくる。そして、社会・医療・福祉からある程度の援助があれば、病院や施設に預けず家庭で介護しようという気持ちにもなってく る。しかし、一方では、認知症が進行して、より多彩な症状を呈してくるのもこの時期である。
杉山孝博:
川崎幸(さいわい)クリニック院長。1947年愛知県生まれ。東京大学医学部付属病院で内科研修後、患者・家族とともにつくる地域医療に取り組もうと考えて、1975年川崎幸病院に内科医として勤務。以来、内科の診療と在宅医療に取り組んできた。1987年より川崎幸病院副院長に就任。1998年9月川崎幸病院の外来部門を独立させて川崎幸クリニックが設立され院長に就任し、現在に至る。現在、訪問対象の患者は、約140名。
1981年から、公益社団法人認知症の人と家族の会(旧呆け老人をかかえる家族の会)の活動に参加。全国本部の副代表理事、神奈川県支部代表。公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問。公益財団法人さわやか福祉財団(堀田力理事長)評議員。
著書は、「認知症・アルツハイマー病 早期発見と介護のポイント」(PHP研究所)、「介護職・家族のためのターミナルケア入門」(雲母書房)、「杉山孝博Drの『認知症の理解と援助』」(クリエイツかもがわ)、「家族が認知症になったら読む本」(二見書房)、杉山孝博編「認知症・アルツハーマー病 介護・ケアに役立つ実例集」(主婦の友社)、「21世紀の在宅ケア」(光芒社)、「痴呆性老人の地域ケア」(医学書院、編著)など多数。