No.34–知は力なり、よく知ろう-知識が介護負担を軽減
当会副代表理事の杉山孝博Drによる連載です。全52回、毎週日曜日と水曜日に新しい記事を追加します。
公益社団法人認知症の人と家族の会副代表理事・神奈川県支部代表
公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問
川崎幸クリニック院長
杉山 孝博
医療や介護の現場にいて感じるのは、必要な知識不足からもたらされる混乱が非常に多いことだ。
必要不可欠な知識が適切なタイミングで得られると、介護の混乱も介護負担も軽くなるのは間違いない。
予備知識も経験もなく介護にかかわり始めた人は、直面する症状に振り回されて右往左往するばかりで、地域包括支援センターや「認知症の人と家族の会」などに相談することも介護に関する本を読んで知識を得ることもできないのが普通だ。
「あなたが自分の娘だと分らなくなったのは、昔の世界に戻っているからなのですよ」
「『症状の出現強度の法則』があって、身近な人に強い症状を出すのが特徴です。身近な介護者を信頼しているから、安心して症状を出していると理解してください」
「感情が非常に鋭敏です。あなたがイライラしていると本人も落ち着かなくなります。演技だと思って、よい感情を残すような対応をしましょう。そのほうがあなたにとっても介護が楽になりますよ」
このような知識が得られるだけでも、介護者の気持ちが変わり介護の負担が軽くなる例は数多い。
最近は、介護用品に関する情報がパンフレットや雑誌、ケアマネジャーから容易に得られるようになった。しかし、「必要な時に、必要なものを」という観点からみると、必ずしも満足できる状態ではない。
老人性難聴が始まると家族は大声で話さなければ通じないもどかしさのため、心身ともに疲れ果てる。しかも、本人には周囲の人の話が分らないため、「ひそひそと話しているのは自分に対して何か企んでいるに違いない」という被害妄想につながることも少なくない。
補聴器を購入して使わせようとしても、必要性を感じない認知症の人にとっては、うるさく煩わしい物でしかない。使わないばかりか数十万円もの補聴器をなくしてしまうこともある。
そのようなとき、100円ショップで売っているメガホンや、「もしもしホン」という伸縮自在のプラスチック製チューブを紹介すると、普通の声で話せるので家族からの感謝は請け合いだ。
介護保険による介護サービスや訪問診療、訪問看護といった制度も、あらかじめ知っていると気持ちが楽になる。
認知症相談や家族教室、家族の会のつどいなどにも何とか都合をつけて積極的に参加するのがよい。そこから得られるものは少なくないはずだ。「知は力なり」だからである。
杉山孝博:
川崎幸(さいわい)クリニック院長。1947年愛知県生まれ。東京大学医学部付属病院で内科研修後、患者・家族とともにつくる地域医療に取り組もうと考えて、1975年川崎幸病院に内科医として勤務。以来、内科の診療と在宅医療に取り組んできた。1987年より川崎幸病院副院長に就任。1998年9月川崎幸病院の外来部門を独立させて川崎幸クリニックが設立され院長に就任し、現在に至る。現在、訪問対象の患者は、約140名。
1981年から、公益社団法人認知症の人と家族の会(旧呆け老人をかかえる家族の会)の活動に参加。全国本部の副代表理事、神奈川県支部代表。公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問。公益財団法人さわやか福祉財団(堀田力理事長)評議員。
著書は、「認知症・アルツハイマー病 早期発見と介護のポイント」(PHP研究所)、「介護職・家族のためのターミナルケア入門」(雲母書房)、「杉山孝博Drの『認知症の理解と援助』」(クリエイツかもがわ)、「家族が認知症になったら読む本」(二見書房)、杉山孝博編「認知症・アルツハーマー病 介護・ケアに役立つ実例集」(主婦の友社)、「21世紀の在宅ケア」(光芒社)、「痴呆性老人の地域ケア」(医学書院、編著)など多数。