No.40–幻視伴う「レビー小体型」-反社会的行為をする型も
当会副代表理事の杉山孝博Drによる連載です。全52回、毎週日曜日と水曜日に新しい記事を追加します。
公益社団法人認知症の人と家族の会副代表理事・神奈川県支部代表
公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問
川崎幸クリニック院長
杉山 孝博
今回も認知症の原因を引き続き説明しよう。
手の震えなどパーキンソン病のような症状、見えないものが見えるように感じる幻視、認知症症状がある場合、「レビー小体型認知症」と診断されることが多い。
「レビー小体」とはパーキンソン病患者の神経細胞に現れる異常な物質のこと。それが認知機能にかかわる大脳の神経細胞にみられるようになるのだ。
「犬がいるから餌をやる」「お客さんが来ているからお茶を出して」というように生々しい幻覚が最も目立つ特徴だ。家族が否定すると、むきになって反論してくる。
脳では記憶の中枢のある側頭葉と、目から入る情報を処理する後頭葉が萎縮したり活動性が低下したりするのが特徴で、そのために幻視が起こる。
手の震えや小刻み歩行、手足の硬さ、仮面のような表情の少ない顔といったパーキンソン病症状のほか、便秘や失禁、立ちくらみなどの自律神経症状を伴うことがある。
パーキンソン症状に対しては、抗パーキンソン剤が有効な場合がある。幻視に対してトランキライザー(抗不安薬)などを使うとパーキンソン症状を悪化させることがあるので注意が必要である。
前頭側頭型認知症は「ピック病」とも呼ばれる。高度な判断や注意を集中させる働きを担う前頭葉や、記憶中枢のある側頭葉を中心とした脳の萎縮が特徴的だ。
私たちは社会のルールに照らしながら、食欲、性欲など本能的な欲求行動をコントロールしている。前頭葉の働きが低下すると、人前で排便をする、陳列棚の食べ物をその場で封を開けて食べ始めるなど反社会的行為をするようになる。
落ち着かなくなり同じパターンの行為を際限なく繰り返す場合も多い。逆に、非活動的、無関心になり、興味が失われ、自発性が減退するときもある。記憶力は初期には比較的保たれている。
動きが活発で対応に手間がかかるためデイサービスなどで受け入れを拒否されることがあるのも問題である。
クロイツフェルト・ヤコブ病では、急速に記憶障害、人物・場所・時間が分らなくなる「見当識障害」が進行し、筋肉の震えや筋力低下などの障害を伴って1年以内に死亡することが多い。
原因は感染性たんぱく質である異常プリオンだと考えられている。プリオンとは細胞膜の構成成分で、異常プリオンは正常なプリオンの構造を変化させ、脳の神経細胞を破壊する。牛海綿状脳症も異常プリオンが原因だ。
杉山孝博:
川崎幸(さいわい)クリニック院長。1947年愛知県生まれ。東京大学医学部付属病院で内科研修後、患者・家族とともにつくる地域医療に取り組もうと考えて、1975年川崎幸病院に内科医として勤務。以来、内科の診療と在宅医療に取り組んできた。1987年より川崎幸病院副院長に就任。1998年9月川崎幸病院の外来部門を独立させて川崎幸クリニックが設立され院長に就任し、現在に至る。現在、訪問対象の患者は、約140名。
1981年から、公益社団法人認知症の人と家族の会(旧呆け老人をかかえる家族の会)の活動に参加。全国本部の副代表理事、神奈川県支部代表。公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問。公益財団法人さわやか福祉財団(堀田力理事長)評議員。
著書は、「認知症・アルツハイマー病 早期発見と介護のポイント」(PHP研究所)、「介護職・家族のためのターミナルケア入門」(雲母書房)、「杉山孝博Drの『認知症の理解と援助』」(クリエイツかもがわ)、「家族が認知症になったら読む本」(二見書房)、杉山孝博編「認知症・アルツハーマー病 介護・ケアに役立つ実例集」(主婦の友社)、「21世紀の在宅ケア」(光芒社)、「痴呆性老人の地域ケア」(医学書院、編著)など多数。