No.41–一度は受けよう専門的診断-治る認知症もある
当会副代表理事の杉山孝博Drによる連載です。全52回、毎週日曜日と水曜日に新しい記事を追加します。
公益社団法人認知症の人と家族の会副代表理事・神奈川県支部代表
公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問
川崎幸クリニック院長
杉山 孝博
脳の血管が詰まったり破れたりして起こるのが血管性認知症である。
起こってしまった血管や神経細胞の変化を元に戻すことは難しい。進行を予防するために血管を拡張させたり血液が固まるのを押さえる薬が使われることがある。高血圧症や糖尿病、肥満、運動不足などは動脈硬化を進行させるので、それらの治療や予防は血管性認知症の予防になる。
甲状腺機能低下症によっても、認知症の症状が出る。
新陳代謝の中心的な働きをする甲状腺ホルモンが少なくなると、全身倦怠感、気力低下、物忘れ、体のむくみ(粘液水腫)などが出現する。診断がついて甲状腺ホルモン製剤を服用すると、症状が劇的に改善する。
転んで頭などを打った後、数日から数週間たって認知症症状や運動まひが現れた場合には、頭蓋骨と脳の間に血液が徐々にたまる慢性硬膜下血腫や硬膜外血腫の疑いがある。高齢者の血管はもろいので、頭を打っていなくても出血する場合がある。頭部CTにより容易に診断できる。
治療は頭蓋骨に1~2カ所、穴を開け、ここから血の塊を吸い出すだけの簡単な手術で、開腹手術より負担は少ないので高齢者でも安全に行なうことができる。
豆腐のようにもろい脳は、頭蓋骨という容器の中で水に浮かんだ状態で強い衝撃から守られている。その水(脳脊髄液)が異常にたまって脳組織を圧迫するようになると、歩行障害などの運動麻痺、認知症症状、失禁などの症状が出てくる。
頭部CTで脳の中心部の脳室が拡大していれば正常圧水頭症が疑われる。この場合も負担の少ない手術により症状が劇的に改善することがある。
脳腫瘍も認知症の原因の一つだ。
74歳の女性が3週間前に急に妄想に襲われ、金銭管理が困難になったり、着替えを拒否したりといった症状が出たため、かかりつけの医師から、専門医に受診するよう勧められ、わたしの外来を受診したことがあった。
頭部CTを実施したところ、右前頭葉に腫瘍による広範囲の変化が認められた。脳外科にも相談して脳腫瘍と診断。県立がんセンターに紹介したが、病状が悪くなる可能性が高いと思われた。
それから5カ月後、夫の付き添いでその患者が来院して、あまりにも元気になっていたのでビックリした。最終的に悪性リンパ腫と診断されて、抗癌剤で治癒したのであった。
杉山孝博:
川崎幸(さいわい)クリニック院長。1947年愛知県生まれ。東京大学医学部付属病院で内科研修後、患者・家族とともにつくる地域医療に取り組もうと考えて、1975年川崎幸病院に内科医として勤務。以来、内科の診療と在宅医療に取り組んできた。1987年より川崎幸病院副院長に就任。1998年9月川崎幸病院の外来部門を独立させて川崎幸クリニックが設立され院長に就任し、現在に至る。現在、訪問対象の患者は、約140名。
1981年から、公益社団法人認知症の人と家族の会(旧呆け老人をかかえる家族の会)の活動に参加。全国本部の副代表理事、神奈川県支部代表。公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問。公益財団法人さわやか福祉財団(堀田力理事長)評議員。
著書は、「認知症・アルツハイマー病 早期発見と介護のポイント」(PHP研究所)、「介護職・家族のためのターミナルケア入門」(雲母書房)、「杉山孝博Drの『認知症の理解と援助』」(クリエイツかもがわ)、「家族が認知症になったら読む本」(二見書房)、杉山孝博編「認知症・アルツハーマー病 介護・ケアに役立つ実例集」(主婦の友社)、「21世紀の在宅ケア」(光芒社)、「痴呆性老人の地域ケア」(医学書院、編著)など多数。