No.42–薬で進行を穏やかに-ワクチン療法も開発中
当会副代表理事の杉山孝博Drによる連載です。全52回、毎週日曜日と水曜日に新しい記事を追加します。
公益社団法人認知症の人と家族の会副代表理事・神奈川県支部代表
公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問
川崎幸クリニック院長
杉山 孝博
認知症に対して使われている主な薬を取り上げてみたい。
塩酸ドネペジル(商品名アリセプト)は、アルツハイマー病の原因を治療するものではないが、病気の進行を緩やかにする効果が期待できる。
作用は、シナップスと呼ばれる脳の神経細胞同士のつながりを改善することであって、神経細胞を再生したり「老人班」と呼ばれる脳の異常な変化を消したりするものではない。従って脳の萎縮が進行すると効果はなくなる。
塩酸ドネペジルを服用してから、物忘れや判断力低下が改善して、家事などがスムーズにできるようになった例がある。効果が期待できるのは数ヶ月から1,2年と言われている。できるだけ早い時期から治療をはじめることが大切だ。
5mgを1錠、朝食後に服用するのが基本だが、現在は10mgまで増量できるようになった。
私の経験では副作用はあまりみられないが、ときに下痢・嘔吐などの胃腸症状が出ることがある。しかし興奮・不安・うつ状態などの精神症状がまれに出ることもあるので注意が必要だ。
認知症の介護が大変なのは、幻覚・妄想・興奮・暴力・徘徊など、いわゆる「周辺症状」が出ている場合だ。認知症の人の世界を理解して、その世界に合わせて対応するのがよいのだが、現実的には介護者がこれらの症状に振り回されて疲労困ぱいする場合が多い。
激しい症状に対しては統合失調症などに使われる向精神薬が、また不安・緊張・不眠などに対して抗不安薬・睡眠薬が使われることがある。しかしパーキンソン症状や意欲低下、ふらつき、食欲低下といった副作用が見られることが少なくないので注意が必要だ。
幻覚・攻撃性・興奮などの激しい症状に対して、漢方薬の「抑肝散」が使われることがある。特に「レビー小体型認知症」の幻視に対して副作用が少なく、効果があるという報告がある。
それ以外に、脳の血流や脳神経細胞の活動性を高める目的で、脳循環・代謝改善薬が処方されることもある。
これから登場が予想される新薬としては、塩酸ドネペジルとほぼ同様の作用をもつ臭化水素酸ガランタミン(内服薬)、リバスチグミン(貼り薬)がある。脳細胞を保護する塩酸メマンチン(内服薬)は治験中だ。
脳に蓄積し、アルツハイマー病の原因となるタンパク質の老廃物「ベータアミロイド」を取り除くワクチン療法も開発中で、将来期待されている。
杉山孝博:
川崎幸(さいわい)クリニック院長。1947年愛知県生まれ。東京大学医学部付属病院で内科研修後、患者・家族とともにつくる地域医療に取り組もうと考えて、1975年川崎幸病院に内科医として勤務。以来、内科の診療と在宅医療に取り組んできた。1987年より川崎幸病院副院長に就任。1998年9月川崎幸病院の外来部門を独立させて川崎幸クリニックが設立され院長に就任し、現在に至る。現在、訪問対象の患者は、約140名。
1981年から、公益社団法人認知症の人と家族の会(旧呆け老人をかかえる家族の会)の活動に参加。全国本部の副代表理事、神奈川県支部代表。公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問。公益財団法人さわやか福祉財団(堀田力理事長)評議員。
著書は、「認知症・アルツハイマー病 早期発見と介護のポイント」(PHP研究所)、「介護職・家族のためのターミナルケア入門」(雲母書房)、「杉山孝博Drの『認知症の理解と援助』」(クリエイツかもがわ)、「家族が認知症になったら読む本」(二見書房)、杉山孝博編「認知症・アルツハーマー病 介護・ケアに役立つ実例集」(主婦の友社)、「21世紀の在宅ケア」(光芒社)、「痴呆性老人の地域ケア」(医学書院、編著)など多数。