No.48–なじみのスタッフで安心-小規模多機能型居宅介護

杉山Drの知っていますか?認知症当会副代表理事の杉山孝博Drによる連載です。全52回、毎週日曜日と水曜日に新しい記事を追加します。


公益社団法人認知症の人と家族の会副代表理事・神奈川県支部代表

公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問
川崎幸クリニック院長

杉山 孝博

認知症は環境の変化に大きな影響を受けやすいのが特徴だ。認知症の人が慣れ親しんだ地域で生活を続けられるためには、生活の場とケアの場とが密着して、きめ細かなケアが行われるような仕組みが必要だ。

デイサービス、ショートステイ、訪問介護、訪問入浴サービスなどを利用する場合、それぞれのサービスを提供する事業者が異なっているため、利用するごとにスタッフや環境が変わって認知症の人が戸惑い、混乱することは十分考えられる。

そこで登場したのが「小規模多機能型居宅介護」。2006年4月の介護保険の見直しで新設された。小規模な施設等で、主として認知症や中重度の人を 対象として、自宅と施設間のケアの連続性を重視した「通い」「泊まり」「訪問介護」「入浴サービス」等のサービスを一体的に提供する。

ほかの介護サービスと違って、利用したサービスの種類や量にかかわらず要介護度に応じた介護報酬が設定されているのが大きな特徴だ。

利用者は事業所に登録することによって、利用者の状態や希望に応じて「通い」を中心に種々のサービスを利用することができる。

1事業所の利用者登録数は25人程度で、1日当たりの「通い」の利用者は15人以下、「泊まり」の利用者は5~9人が上限となっている

「家の近くにあって気軽に立ち寄れる場だと思います。馴染みのスタッフが家に来てくれて訪問介護もしてくれます。泊まりも本人の気持ちや家族の都合に合わせ、弾力的に対応してもらえますから本当に助かっています」とは、ある介護家族の感想である。

一般のショートステイはしばしば馴染みのない施設で行われていて認知症の人が混乱することにもなるのだが、普段から通いなれている所に一晩泊まるという形であれば環境の変化による混乱を回避することができる。

一人暮らしの認知症の人の中には、訪問介護が必要になっても「自分はできるから」と言って、外部の人との関わりを拒絶することがある。

そのような場合でも「通い」などで馴染みのスタッフが訪問介護に関わるなら、受け入れは比較的容易になると期待できる。

小規模多機能型居宅介護による訪問介護は 本人にとっても家族にとっても、安心して在宅介護を継続するための有力なサービスとなり得るだろう。地域密着型サービスの一つとして全国津々浦々に普及してほしいものである。


杉山孝博:

川崎幸(さいわい)クリニック院長。1947年愛知県生まれ。東京大学医学部付属病院で内科研修後、患者・家族とともにつくる地域医療に取り組もうと考えて、1975年川崎幸病院に内科医として勤務。以来、内科の診療と在宅医療に取り組んできた。1987年より川崎幸病院副院長に就任。1998年9月川崎幸病院の外来部門を独立させて川崎幸クリニックが設立され院長に就任し、現在に至る。現在、訪問対象の患者は、約140名。

1981年から、公益社団法人認知症の人と家族の会(旧呆け老人をかかえる家族の会)の活動に参加。全国本部の副代表理事、神奈川県支部代表。公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問。公益財団法人さわやか福祉財団(堀田力理事長)評議員。

著書は、「認知症・アルツハイマー病 早期発見と介護のポイント」(PHP研究所)、「介護職・家族のためのターミナルケア入門」(雲母書房)、「杉山孝博Drの『認知症の理解と援助』」(クリエイツかもがわ)、「家族が認知症になったら読む本」(二見書房)、杉山孝博編「認知症・アルツハーマー病 介護・ケアに役立つ実例集」(主婦の友社)、「21世紀の在宅ケア」(光芒社)、「痴呆性老人の地域ケア」(医学書院、編著)など多数。


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