No.50–一人で悩まず、まず相談-整備進むコールセンター
当会副代表理事の杉山孝博Drによる連載です。全52回、毎週日曜日と水曜日に新しい記事を追加します。
公益社団法人認知症の人と家族の会副代表理事・神奈川県支部代表
公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問
川崎幸クリニック院長
杉山 孝博
「認知症の人と家族の会」が発足した1980年当時、認知症について相談が受けられる場は、保健所や老人福祉センターなど全国どこにもなかった。
認知症の介護に当面して混乱し、悩んでいる家族にとって、まず必要とされるのが、気軽に悩みを聞いてもらい、アドバイスが得られる相談の場であろう。
家族の会のすべての支部は、介護家族が気軽に話し合える場である「つどい」と、電話相談、そして会報発行を重要な支部活動の柱として位置づけてきた。
特に電話相談は、いつでもどこにいても話ができるというアクセスの良さのため、介護者にとって重要なものであった。
しかし、当時は世話人の自宅で相談電話を受けていたので、自宅の電話が昼夜問わず鳴りっぱなし、ということもあった。
「数年前の新聞の切り抜きを見ながら、家族の会に思い切って電話をしましたら、優しく親身になって相談に答えていただきました。肩の荷が半分くらい軽くなった思いがしました」とは、ある介護者の体験である。
2008年7月、厚生労働省は「認知症の医療と生活の質を高める緊急プロジェクト報告」を発表した。その中で、専門家、経験者等によるコールセンターを都道府県や指定都市ごとに1ケ所設置する方針を打ち出し、全国的な規模で電話相談の体制が整えられることになった。
電話相談に関して実績のある家族の会の支部が行政から委託を受けて運営している例も少なくない。わたしが代表になっている神奈川県支部も、県からの委託をうけて週3日間、コールセンターを開設し、さまざまな相談を受け付けている。
最近は医療や介護などの専門的な情報を求められる場合もある。その場合は相談員の力量に応じて対応し、用意されている資料を参考にしながら専門機関を紹介することになる。
相談員も自分の体験だけでなく、幅広い知識を持つ必要があり、相談員に対する研修が重要だ。
2009年3月、家族の会により「認知症コールセンターマニュアル」が作成され、相談員の質の向上と均質化に役立っている。
相談に応じている機関は家族の会だけではない。地域包括支援センター、地域の保健福祉センターに加え、看護協会・介護支援専門員協会・司法書士会といった専門職の団体も相談窓口を設けている。
とにかく「一人で悩まず、抱え込まずに、まず相談」である。
杉山孝博:
川崎幸(さいわい)クリニック院長。1947年愛知県生まれ。東京大学医学部付属病院で内科研修後、患者・家族とともにつくる地域医療に取り組もうと考えて、1975年川崎幸病院に内科医として勤務。以来、内科の診療と在宅医療に取り組んできた。1987年より川崎幸病院副院長に就任。1998年9月川崎幸病院の外来部門を独立させて川崎幸クリニックが設立され院長に就任し、現在に至る。現在、訪問対象の患者は、約140名。
1981年から、公益社団法人認知症の人と家族の会(旧呆け老人をかかえる家族の会)の活動に参加。全国本部の副代表理事、神奈川県支部代表。公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問。公益財団法人さわやか福祉財団(堀田力理事長)評議員。
著書は、「認知症・アルツハイマー病 早期発見と介護のポイント」(PHP研究所)、「介護職・家族のためのターミナルケア入門」(雲母書房)、「杉山孝博Drの『認知症の理解と援助』」(クリエイツかもがわ)、「家族が認知症になったら読む本」(二見書房)、杉山孝博編「認知症・アルツハーマー病 介護・ケアに役立つ実例集」(主婦の友社)、「21世紀の在宅ケア」(光芒社)、「痴呆性老人の地域ケア」(医学書院、編著)など多数。