No.52–「20XX-年」の認知症-医療進歩、介護は地域密着

杉山Drの知っていますか?認知症当会副代表理事の杉山孝博Drによる連載です。全52回、毎週日曜日と水曜日に新しい記事を追加します。


公益社団法人認知症の人と家族の会副代表理事・神奈川県支部代表

公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問
川崎幸クリニック院長

杉山 孝博

超高齢化が進行して、認知症の人が約500万人になった20XX年の日本。タイムマシンに乗って見聞してきた、未来の認知症の医療とケアについて報告する。

徘徊に対して衛星利用測位システム(GPS)内蔵の携帯電話が登場し、本人の居場所が分かることで家族の不安は軽くなった。しかし、携帯電話では電池切れ、紛失などの心配があった。

体や空気の熱を電気エネルギーに転換技術や省エネ技術が発達し、充電の必要がなく安価なフィルム状の「ICタグ」が開発された。衣服やかばん、靴などに張り付け、本人の居場所が確実に把握できるようになった。

皮下に埋め込む「マイクロカプセルIC」も開発されているが、人権問題もあって使用は一部にとどまっている。

認知症の人は昔の時代に戻り、その世界を現実のものととらえる特徴がある。脳波磁気解析技術、バーチャル映像技術、三次元ホログラム技術などが結びついて、認知症の人が思っている世界や人物が、周りの人にも分かるようになり、混乱が軽くなった。

興奮して大声を出されると、家族や隣家のストレスは甚だしい。そこで大声を別の音波で打ち消す「音中和装置」が開発された。室内や本人の体につけておくだけで、大声が数分の一になり、家族らのストレスが軽くなった。

どの時代も医学・医療に対する期待は大きい。認知症に関する多数の遺伝子が発見され、構造も解明されてきた。遺伝子診断によって認知症になる確率がある程度算出できるようになった。

しかし、認知機能のメカニズムはあまりにも複雑なため研究の緒についたばかりである。

認知症は生命の宿命である老化の仕組みと複雑に絡み合っていることが明らかになって、治療の難しさが思い知らされている。それでも病気の進行を抑える治療薬は、数種類が使われている。

記憶を司る海馬などでは、神経細胞が新生されていることが1998年以降分かっていた。神経細胞の増殖と維持を促す神経成長因子の解明と、それを認知症治療に応用する研究が進みつつある。

認知症のケアでは個別対応しすい地域密着型サービスが普及している。

住宅のセキュリティシステムは地域の交流を閉ざし、認知症の人の自宅への出入りを妨げる要因となる。そのため出入りしやすいようにシステムを撤去する動きが始まった。

(終わり)


杉山孝博:

川崎幸(さいわい)クリニック院長。1947年愛知県生まれ。東京大学医学部付属病院で内科研修後、患者・家族とともにつくる地域医療に取り組もうと考えて、1975年川崎幸病院に内科医として勤務。以来、内科の診療と在宅医療に取り組んできた。1987年より川崎幸病院副院長に就任。1998年9月川崎幸病院の外来部門を独立させて川崎幸クリニックが設立され院長に就任し、現在に至る。現在、訪問対象の患者は、約140名。

1981年から、公益社団法人認知症の人と家族の会(旧呆け老人をかかえる家族の会)の活動に参加。全国本部の副代表理事、神奈川県支部代表。公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問。公益財団法人さわやか福祉財団(堀田力理事長)評議員。

著書は、「認知症・アルツハイマー病 早期発見と介護のポイント」(PHP研究所)、「介護職・家族のためのターミナルケア入門」(雲母書房)、「杉山孝博Drの『認知症の理解と援助』」(クリエイツかもがわ)、「家族が認知症になったら読む本」(二見書房)、杉山孝博編「認知症・アルツハーマー病 介護・ケアに役立つ実例集」(主婦の友社)、「21世紀の在宅ケア」(光芒社)、「痴呆性老人の地域ケア」(医学書院、編著)など多数。


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