どうするつもりか介護保険法=次期改正の動きレポート#15
介護保険・社会保障専門委員会
6月15日に予定されていた第178回給付費分科会が、同25日に延期されて実施されました。今回も「オンライン会議」形式で、午前9時から12時まで、会議中の時間帯のみライブ配信という形で公開されました。議題は、令和3年度介護報酬改定に向けて (1)自立支援・重度化防止の推進 、(2)介護人材の確保・介護現場の革新 、(3)制度の安定性・持続可能性の確保、でした。どの議題も重要度の高いものですが、「家族の会」として、この日に発信すべき問題は、6月1日付けで厚生労働省老健局が出した「介護保険最新情報~新型コロナウイルス感染症に係る介護サービス事業所の人員基準等の臨時的な取り扱いについて(第12報)」(いわゆる「介護報酬特例措置」)への異議でした。
鎌田松代事務局長の発言要旨
在宅生活の要である通所事業の存続には公費を!!
補正予算関係ですが、資料3の31ページに「介護サービス事業所等に対するサービス継続支援事業」、38ページに「新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金」と、介護保険のサービス提供事業所、介護労働者を支えるための事業が紹介されています。(※)
そこで、「新型コロナウイルス感染症にかかる介護サービス事業所の人員基準等の臨時的な取り扱いについて第12報」(特別措置)ですが、家族の会の電話相談にもこの件での相談がありました。内容は「デイサービスの都合で、3時間しか利用していないのに、6時間の利用料を取られるのに納得がいかない」との怒りの電話でした。事業所にはコロナ禍で大変な中で事業継続していただき感謝でいっぱいです。しかし利用者にその感謝の分(安全や健康を守るための恩恵を利用者が受けているからでしょうか?)を負担するように、また限度額を超えた分は全額自己負担となってしまいます。同意が取れた利用者だけへの負担増ですから、同意しない人との不公平も生じています。
感染の第2波が来た時には、実際の利用料よりも多く、支払わないといけなくなるので、月当たり3回以下にデイの利用自粛をしなくてはならなくなってきます。それでなくても外出自粛、コロナが怖いと、デイの利用自粛で要介護者・支援者はADLの低下、認知機能の低下となってきています。
この算定への事業所の説明は電話でも可能となっており、利用者・家族の混乱はさらに大きいです。説明の文書も国の通知文書が転用されたりし、理解しにくい内容となっています。支給限度額を管理するケアマネージャーも、減収分は補いたいけど、説明のしようが難しいことで事業所も困っています。
事業所が閉鎖されずにサービス提供をしていかれるための努力への評価を、利用者がするべきという事なのでしょうか。「介護の質向上にもつながる」とされる処遇改善加算は実際に職員さんから介護を受けているので納得できますが、在宅生活の要である通所事業所の存続のためにはこれこそ、国が公費を投入して事業所の減収分を補い支えていくべきです。事業所支援と利用者負担を一体的にすべきでなく、別にすべきです。この現状に関してご担当で把握されている現状などがあればお聞かせください。
(※当日配布資料3「令和3年度介護報酬改定に向けて(制度の安定性・持続可能性の確保)」の中の「令和2年第一次補正予算における対応」として「継続支援事業」に総額103億円(国及び地方)「第2次補正予算概要」の中に「包括支援交付金」として4132億円計上)
議題に沿って、資料から見えた気がかりなことをレポートします
“科学的裏付けによる介護を進める”って?
議題1の「自立支援・重度化防止の推進」に関する資料1にある「論点整理」の中に「科学的裏付けに基づく介護の推進」という項目があります。2017年に発足した厚生労働省の「科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」(鳥羽研二座長)が2019年7月に出した「とりまとめ」はその「裏付け」作業のための資料収集の考え方を示しています。認知症に関しては「認知症ケアの効果および認知症の身体的ケア効果を判定する項目が必要」としていますが、「効果」についての記述は、「介護分野においては……医療における『治療効果』など関係者に共通のコンセンサスが必ずしも存在するわけではなく、個々の利用者等の様々なニーズや価値判断が存在しうることに留意が必要である」と言うに留まっています。「科学的介護」なる言葉は一般化してきていますが、とりわけ認知症の人の介護に関しての所見を注目していきたいと思います。
介護人材不足が収まらない~年収108万円差だけではない~
議題2の「介護人材の確保・介護現場の革新」に関する資料2には、厚生労働省「令和元年賃金構造基本統計調査」に基づく結果として、介護職(ヘルパー及び施設介護職)の平均給与(賞与込み)月額平均28万8千円、全産業平均は37万3千円で、月額9万円、年収にすると108万円の差が以前としてあります。「平成30年度介護労働実態調査」による離職の理由を、この資料2では、「上位に、『職場の人間関係』(22.7%)や『法人・事業所の理念や運営のあり方に対する不満』(16.5%)が挙げられるとともに、『収入が少なかったため』という理由をあげている割合が16.4%となっている。」とまとめています。給与条件以上に職場環境の影響が大きい事は、利用者の立場からするととても気がかりな状況です。
一方、「介護現場の革新」として大きく掲げられているのが「介護現場の生産性向上」で、なかでも「介護ロボットの導入」には力が入っている印象です。2019年実施の「介護ロボットの効果実証に関する調査研究」では、「見守り機器の導入による効果実証では、見守り機器の導入割合が高い施設ほど、業務時間の削減効果が大きい結果となった」とまとめられていますが、介護の現場での機器導入はあくまで副次的なものあって欲しいと願います。
共助の推進ではなく公的支援を中心とした制度設計を
議題3「制度の安定性・持続可能性の確保」に関する資料3の「論点整理」の最後には「今後も、感染症や災害の発生時も含めサービスが安定的・継続的に提供されるようしていくことが 必要であるが、介護報酬や人員、運営基準等において、どのような対応が考えられるか。」と書かれています。その「論点」の対しては、同資料3に「分科会での主なご意見」(発言者名無し)として紹介された「新型コロナウイルス感染症の対応を通じ、共助の推進ではなく、公的な支援を中心とした制度設計が必要と再認識されたのではないか」という、鎌田松代事務局長の発言を答えの一つとしたいと思います。
私たち「家族の会」は、冒頭の「介護報酬特例措置」に対する要請文を6月29日に厚生労働大臣に提出しました。当HPの「活動内容」➡「提言・要望・主張」の所で、動画による説明と「要請文」が掲載されていますので、ぜひご覧ください。
(まとめと文責 鎌田晴之)
会議資料などは下記のアドレスで閲覧できます。