どうするつもりか介護保険法=次期改正の動きレポート#18
介護保険・社会保障専門委員会
はじめに~約1か月で4回の会議、介護報酬の改定検討続く~
厚生労働省社会保障審議会は、第180回が7月20日、181回が8月3日、182回が8月19日、183回が8月27日と、来年度からの報酬改定に向けて、忙しい日程で開催されています。181回が午後3時から6時で、他の3回は午前9時から12時に「オンライン会議」形式で行われました。時間延長した回もあります。各回とも、会議中の時間帯のみライブ配信という形で公開されましたが、今回のレポートでは、この4回をまとめてお伝えします。
議題を列記します。
180回(7月20日) 令和3年度介護報酬改定に向けて
通所介護、認知症対応型通所介護、療養通所介護、通所リハビリテーション、短期入所生活介護、短期入所療養介護、福祉用具・住宅改修
181回(8月3日) 令和3年度介護報酬改定に向けて
事業者団体ヒアリング①
日本ホームヘルパー協会、全国訪問看護事業協会、全国介護事業者連盟 、24 時間在宅ケア研究会 、全国社会福祉法人経営者協議会、日本福祉用具・生活支援用具協会、 日本福祉用具供給協会、 全国小規模多機能型居宅介護事業者連絡会、 全国個室ユニット型施設推進協議会、 日本栄養士会、 日本リハビリテーション医学会、 日本リハビリテーション病院・施設協会、 日本訪問リハビリテーション協会、 全国デイ・ケア協会、 日本理学療法士協会、 日本作業療法士協会、 日本言語聴覚士協会、(書面提出のみの団体) 全国ホームヘルパー協議会
182回(8月19日) 令和3年度介護報酬改定に向けて
(1)事業者団体ヒアリング②
日本認知症グループホーム協会、 全日本病院協会、 日本病院会、 日本医療法人協会、 日本精神科病院協会、 全国軽費老人ホーム協議会、 全国有料老人ホーム協会、 全国介護付きホーム協会、 高齢者住宅協会、 (書面提出のみの団体) 宅老所・グループホーム全国ネットワーク
(2)訪問介護、訪問入浴介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、 居宅療養管理指導、居宅介護支援
*ヒアリング団体については、「ヒアリングの実施に係る事前の照会に対して、意見
有りと回答した別紙の団体について、ヒアリングを実施する」としています。
183回(8月27日) 令和介護報酬改定に向けて
介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護医療院、 介護療養型医療施設)
配布資料や情報サイトから~どの回の議事録も公表に至っていませんので~
第180回(7月20日)
「通所介護・地域密着型通所介護・認知症対応型通所介護」の配布資料から
29頁、厚労省が示す『管理的経費の実績を見ると、サービス提供1人当たりのコストは、通常規模型と比較して、大規模型は低くなっている。…全体として事業所の規模の拡大による経営の効率化に向けた努力を損なうことがないようにする…』という「大規模化」に肯定的な観点は、認知症の人にとっての影響が気になります。
*「通常規模型」=延べ利用者数、月300超750人以下。「大規模型1」=月900人以内「大規模型2」=月900人以上
64頁『認知症対応型通所介護については、平成27年度までは増加傾向にあったが、平成28年度以降減少傾向にある』という現状には、認知症の人が減っているわけではないのになぜなのか、制度設計に問題は無いのかなどを確かめたい所です。
「自立偏重の懸念」~「ADL維持等加算」について~
介護情報サイト「JOINT」(以下「JOINT」)によれば、この日の会議で多くの委員から出されたのが「ADL維持等加算」についてでした。要介護度を進行させない努力に対する報酬であるこの加算に対して、受け取るための手間がかかる割に報酬が低い事が主な理由で、例えば通所介護事業所でこの加算を取っているのはわずか0.2%という現状です。仮に増額して多くの事業所が受給するようになると、サービスの「自立偏重」や受給対象になりやすい利用者を選択するような傾向も懸念されるため『厚労省はうまくバランスさせる妙案を模索している』と伝えています。
通所介護の利用料を2段階上乗せできる今回の「特例措置」について、全国知事会の充て職である神奈川県知事の代理出席の県職員は、「特例の趣旨は理解できるが、今の状況下では利用者の同意を得ることが非常に困難。事業所は算定しにくい」と指摘。「通所介護の重要性を考慮した臨時的、例外的な措置として、増加分の利用者負担は求めないことにしてはどうか」と提案しました。
第181回(8月3日) この日は、18団体(前述)へのヒアリングが行われました。その中からいくつかをご紹介します。
「老計10号1-6を確実に行えるように」~「日本ホームヘルパー協会」
「老計10号」とは、2000年3月17日に厚労省老人保健福祉局老人福祉計画課長名で都道府県介護保険主管部局宛に出した「通知」です。2018年に「見直し」が行われました。表題は「訪問介護におけるサービス行為ごとの区分等について」で、その「1-6」は、『自立生活支援・重度化防止のための見守り的援助(自立支援、ADL・IADL・QOL向上の観点から安全を確保しつつ常時介助できる状態で行う見守り等)』というものです。16項目の「援助」例が示され、その一つには『認知症の高齢者の方と一緒に冷蔵庫のなかの整理等を行うことにより、生活歴の喚起を促す』というものもあります。同協会は、この「1-6」が確実に行われれば、「重度化が遅延され」「給付抑制につながる」と主張し、そのためには必要な人材を確保でき、質の高い訪問介護を実施できる制度や報酬の見直しを求めています。
「新型コロナウイルス感染症下においても優位性がある」~「全国小規模多機能型居宅介護事業者連絡会」
同会は、「在宅の限界点を高めるための認知症高齢者を中心とした新たなケアの必要性から生み出された」「小規模多機能型居宅介護」は、「新型コロナウイルス感染症下においても優位性がある」と、一般社団法人 人とまちづくり研究所が実施した「新型コロナウイルス感染症が利用者・ケアマネジメント等に及ぼす影響と現場での取組みに関する緊急調査」を根拠に主張しています。1000人規模の調査によると、「介護支援専門員の訪問に対する利用者の拒否の有無」の問いでは、「居宅介護支援系」では「非常にあり」「ややあり」合計が65.9%、「小規模多機能系」では同16.4%となっています。同連絡会は「ケアとマネジメントが一体化しているメリットが、新型コロナウイルス感染症下においても、介護支援専門員の訪問を拒否する割合や現状把握の困難さの有無でも違いが表れていると推察できる。」としています。また、「認知症のある方の見守りや支援の工夫(の有無)」に関しては、「通所系」の10.8%に対して「小規模多機能系」は24.1%と倍以上になっています。「家族支援」に関しても同様で、他の事業形態と同様に「暮らしを支え、地域を支えている」のに「基本報酬」が低い事に「理由が見当たらない」と「その見直し」を訴えています。
第182回(8月19日) この日も10団体からのヒアリングの後、「訪問介護」などのサービスについて審議されました。
「緊急時ショートステイでの個室要件緩和を」~「日本認知症グループホーム協会」
資料によると同会は、1998年に「全国痴呆性高齢者グループホーム連絡協議会」として発足し、2010年に公益社団法人となり、現在は、全国事業所数の19.4%にあたる2676事業所(4572ユニット)が加盟している団体です。緊急時のショートステイ実施率が16.6%にとどまっており、受け入れていない施設の理由に「個室が無い」が約6割を占めています。(令和元年度老人保健健康増進等事業 「認知症グループホームにおける効果的な従事者の負担軽減の方策とグループホームケアの効果・評価に関する調査研究事業報告書」(日本GH協)「緊急時ショートステイ」が、認知症の人と介護家族にとって様々な必要性のあることから、受け入れやすい制度への変更を求めています。現在小規模多機能型の施設には認められている「個室またはパーテーションなどによるプライバシーの確保」という条件を、「グループホーム」にも適用して欲しい、また、7日間の宿泊日数制限を延長して欲しい、というものです。施設の建築コストの問題はありますが、認知症の人の施設ケアには原則個室というのは譲れないと思いますが、制度設計全体の問題かもしれません。
「いつ辞めるかわからない」「将来に希望が持てない」~「宅老所グループホーム全国ネットワーク」
「本年度、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、職員10人以下のデイサービスの経営が一層厳しくなっています。『いつ辞めるかわからない』『将来に希望が持てない』などと意見が出ています」。コロナ禍が無くても厳しい状況が想像される小規模の事業所からの「意見書」です。①「小規模の事業所では、条件に満たないため加算がとりにくい」「加算はいつなくなるかわからないので、職員の基本給料を上げることができない」から「基本介護報酬を上げて」欲しい。➁「処遇改善加算・特定処遇改善加算を1本化して欲しい」「できれば加算をなくし、基本介護報酬に盛り込んで欲しい」③「支給限度額のアップをして欲しい。今までのサービス量が使えるようにする」➃「事務量を減らして欲しい。ケアにかける時間が減少している。シンプルで分かりやすいものにして欲しい」。いずれの要望も、とにかくケアに集中したいという思いが伝わってきます。基本報酬引き上げの要望は多くの団体から出されていますが、利用料を払う立場としては、介護保険財政の枠内での解決の道の険しさを痛感します。
*「特定処遇改善加算」とは、昨年から導入された「勤続年数 10年以上の介護福祉士について月額平均8万円相当の処遇改善を行う」という基本方針で制度設計されたもの。
「30歳未満は4.2%、65歳以上が25.2%」~訪問介護員の年齢構成
ヒアリング後に介護サービスに関する審議が再開され、「訪問介護」等が議題になりました(前掲)。人材不足は全ての事業形態に共通ですが、訪問介護員の状況はより深刻ではないかと思います。2018年の介護労働実態調査をもとにした今回の資料(資料2「訪問介護・訪問入浴介護」)によりますと「…有効求人倍率は15.03倍と高く、82.1%の事業所が訪問介護員の不足を感じている。…特に、訪問介護員の平均年齢は他の介護関係職種と比較しても高く、60歳以上の構成割合が約4割となっている」。同じ統計資料では、施設介護職員の有効求人倍率は4.31倍です。在宅での介護、特に一人暮らしの方が増えている状況では、訪問介護がきちんと機能していることが必須です。「介護崩壊」という事態を来さないために、報酬を含めた訪問介護の制度設計の見直しが必要だと思います。
第183回(8月27日) この日は、介護保険四施設(介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護医療院、介護療養型医療施設)がテーマでした。
「認知症ケアの取組の評価(に工夫を)」~「全国老人福祉施設協議会」~
同会は「令和3年度介護報酬改定(各論)に関する提案について」と題する意見書の中で、地域包括ケアを推進する観点から、「認知症専門ケア加算」について提案しました。意見書では、この加算項目を『算定率も低く、また具体的な取り組みを促進するような体系にはなっていない。」と指摘。同会が取り組んだ『脳疾患の鑑別診断を行ったうえで適切なケアを行うことにより、ご利用者の生活の状態やBPSD の改善、服薬調整による減薬が可能となった事例がある』として、医療的取組、多職種連携による取組、長期的取組など加算の「要件設計」の検討を要請しています。現在の加算要件は、認知症自立度Ⅲ以上の入所者の割合による人員配置基準や「認知症に関する留意事項の伝達又は技術的指導に係る会議を定期的に開催している」(加算Ⅰ)さらに「研修計画の作成実施」(加算Ⅱ)が示されています。同会が指摘している算定率の低さですが、介護老人福祉施設に設定されている加算63項目(地域密着型のみの1項目除く)の中で、単純比較ですが、最も低い算定率になっています。取得率(2019年10月分)は加算Ⅰが4.98%、Ⅱが1.09%です。加算が申請されていないという事は、ほとんどの施設で「認知症専門ケア」が行われていないという事になるのでしょうか。ちなみに「医師により、認知症の行動・心理症状が認められ、在宅生活が困難であり、緊急的な入所が適当であると判断された者に対しサービスを行った場合」の「認知症行動・心理症状緊急対応加算」が別にあります。算定率も一日200単位と高いのですが、同時期の取得率は0%でした。
「誤嚥や転倒は事故なのか」~「全国老人保健施設協会」~
同会が提出した「老健施設におけるリスクマネジメントに関する取組み」の中で、『老健施設を取り巻くリスク(転倒・転落による事故、施設内感染、個人情報保護、職員間のトラブル、地域との連携ミス、自然災害など)を包括的に把握し、事後対応だけでなく、事前リスクも視野に入れて、現場の中心となってリスクマネジメントを行う人材を養成する制度』の取組を紹介しながら、「転倒や転落、誤嚥を事故と認定することについて少し意見を言いたい。例えば、認知症で危険の意識がなく歩行能力も衰えている方などが転倒されるということは、もう事故ではなく老年症候群の1つの症状ではないかと思う」(「JOINT」)と主張しました。長野県の「特養あずみの里」裁判が逆転無罪になったことを画期的と評価し、現場でのリスク管理の専門性を高める必要性を強調しました。ちなみに現在全国に2300人の「リスクマネージャー」が「活躍中」だそうです。
2019年の「実態調査」によると、「老健施設におけるリスクマネージャー有資格者配置の効果」という設問への回答の中で、「身体拘束廃止が進んだ」「事故報告への対応や仕組みの整備が進んだ」「リスクの責任体制が明確になった」という項目の選択が目立っています。
「次期介護報酬改定に向けた今後のスケジュール」(案)によれば、年内をめどに「基本的な考え方の整理・とりまとめ」が行われることになっています。第183回(8月27日)の審議で、介護保険制度による各種サービスの「検討」が一段落し、今後は具体的な方向性の議論が行われます。きわめて多岐にわたる内容に対し、時間も限られる中、同審議会唯一の利用当事者団体として、焦点を絞った主張をしていかなければなりません。「具体的な方向性」へのご意見・ご提案をお寄せ下さい。
(まとめと文責 鎌田晴之)
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