どうするつもりか介護保険法=次期改正の動きレポート#24
介護保険・社会保障専門委員会
はじめに~「どうするつもりか」が明らかに~
昨年11月12日に「レポート#23」を発信してから3か月以上経過しました。この間審議会は滞りなく開かれ、鎌田松代事務局長も会議の都度、厚生労働省提案への疑問と意見をぶつけてきました。にもかかわらず、この間の経過を報告者である私の都合で行ってこなかったことを、読者の皆様と鎌田松代事務局長に申し訳ない思いで一杯です。さて、年を開けての1月13日の第198回給付費分科会は、「令和3年度介護報酬に関する審議報告」(報告書)(2020年12月23日付)なる報告書を、厚生労働省社会保障審議会会長宛に提出することを決定しました。それは「これまでの議論に基づき、令和3年度介護報酬改定に関する基本的考え方と、それを踏まえた主な改定内容を以下のとおりとりまとめたので報告する」というものです。五日後の同18日、199回給付費分科会で、具体的な改定案が示され了承されました。
今回の「動きレポート」は、この明らかになった「どうするつもりか」を、鎌田事務局長の報告という形でお伝えします。
やはり「利用者負担増・給付の削減
1.改定率0.7%がすべて、「基本報酬」アップは利用者負担増に
1月18日に開催された第199回分科会で、2021年度の介護報酬改定に向けた「単位数」等の見直し案(告示改正案)が了承されました。改定率については、全体で+0.70%であり、そのうち0.05%は新型コロナウイルス感染症に対応するための特例的な評価(令和3年9月末まで)とすることが示されました。
今回の介護報酬改定の最大のポイントは、改定率0.7%がすべて、「基本報酬」アップに充当されたことです。基本報酬がアップされるということは、利用者負担は増額になり、私たち利用者・家族にとっては厳しい内容です。
前回2018年改定ではプラス0.54%でしたが、加算を含めてのものでしたから、加算を算入しない施設などでは、利用料はその分低かったわけです。今回はすべて基本報酬がプラスになりますが、0.7%といっても一律ではありません。例えば、訪問介護の「生活援助20分未満」は、今期312単位から313単位になり+0.3%ですが、通所リハビリの「要介護1」(利用時間7時間~8時間)は、今期716単位が757単位になり+5.7%です。「予防」とか「介護度を下げる」事の重視が見えてきます。特に要支援1の人の通所リハビリは+19.3%の上昇率です。利用料の値上がりが、きちんと介護職員の待遇改善や介護の質の向上につながることを願います。 ちなみに、報酬を金額で表さずに「単位」表示するのは、「地域区分」という制度があり、全国の市町村を規模などで8段階に分けています。東京23区が最大で1単位11.4円で、例えば長野県では、長野・松本・塩尻市以外は10円です。過疎地域の自治体からは、過疎地だから経費が安いわけではない等と、見直しを求めています |
Microsoft PowerPoint – 01_資料1_令和3年度介護報酬改定の主な事項(会議後修正3) (mhlw.go.jp)
2.報酬アップで事業所のサービスの継続を願う
その一方、新型コロナウイルス感染症拡大の中でサービスの継続に日々努力しておられる事業者の方々の経営維持を私たちは願っています。介護報酬増がそのことに貢献できればと苦渋の選択です。また今回の報酬改定ではサービスの質の向上のための、例えば、すべてのサービスに従事する者の認知症対応力を向上させるため、介護に直接携わる職員が認知症介護基礎研修を受講することなど、様々な取組みが更に進められることは意義あること思っています。
「本人主体の介護を行い、認知症の人の尊厳の保障を実現していく観点」(配布資料)から、福祉や医療関係の資格を持たない職員への認知症介護基礎研修が義務づけられました。(3年の経過措置など)。認知症の研修には、「基礎研修」の他に「認知症介護指導者養成」「認知症介護実践リーダー」「認知症介護実践者」の諸研修があり、「認知症専門ケア加算」を算定する条件の一つになっています。今回、訪問系サービス(訪問介護等)に、1日3単位または4単位の加算が新設され、小規模多機能系のサービスでも、「認知症行動・心理症状緊急対応加算」が新設され、1日200単位が加算されます。 |
3.改定内容での怒り
1)夜勤職員を減員
人手不足の解消策として、ICT機器(転倒防止でのセンサーや、職員間の連絡がマイクロフォンできるインカムなど)を活用すると夜勤職員の減員が可能となる、個室ユニットの定員上限をおおむね10人以下とする原則を「15人を超えない」とするなど、職員配置減や職員配置は同じでも利用者を定員増とする改正がだされました。グループホームにおいては、これまで開設ユニットは2ユニットまでが3ユニットまでとなりました。一番の驚きは、3ユニット2名夜勤案(条件あり)が出された時です。認知症対応力向上のための基礎研修が必要ということは、認知症のことを十分に知らない人が介護している現場であると認めてのことなのに、人を減らして、まして夜間の一人での対応では認知症の知識不足な職員さんも気の毒ですが、そのような体制がとられる住まいで暮らす本人も家族も不安は大きいです。看護協会や労働者の団体なども含め断固反対し、1ユニット原則1名の現状が継続となりました。
認知症グループホーム(GH)の職員配置削減は、これまでも「老人保健施設協会」や「日本グループホーム協会」などの事業者団体から出されていた要望です。GHの1ユニットにつき一人という規定は、2006年の長崎県内のGH火災で入居者9人中7人が亡くなるという惨事もあり、この規定の見直しは行われて来ませんでした。それらの団体としては、同惨事以降、防火設備も充実し、見守り機器の発達もある中で、人員配置の「緩和」は可能である、と主張してきました。今回は1名配置が継続されましたが、ユニット数や利用者定員の「緩和」などで、原則堅持の主張への包囲網が狭まっている危惧を感じます。 |
2)人材不足に根本での対応策なし
介護人材の確保では、「有効な手立ては示されていない」が私の評価です。処遇改善加算の効果で給与は平均2万円強上がっているので、更なる改善を目指す加算が示されました。 しかし問題はそこだけでなく、「そもそもこのような社会情勢の中でも、介護業界に応募する方がないことが問題であり、調査を」と発言しましたが、回答はありませんでした。課題の解決方法に問題があると考えます。
今回の改定でも「介護福祉士割合や勤続年数の長い介護福祉士の割合が高い事業者を評価する新たな区分を設ける」といった、「加算」偏重の取組が人材対策でも目立ちます。また、「仕事と育児や介護との両立が可能となる環境整備を進め、職員の離職防止・定着促進を図る観点」も示していますが、離職防止と共に重要なのが、介護職人材確保です。厚労省は毎年、「老人保健健康増進等事業」(老健事業)という、高齢者の施策づくりに生かすための、例えば「認知症の本人の意見と力を活かした地域共生社会づくりに関する調査研究」は「家族の会」の受託事業です。昨年度は全部で176件、予算25億円をかけて行っています。認知症を対象としたものも32件有ります。しかし、鎌田事務局長の指摘する、なぜ介護職に応募する人が少ないのかの調査は見当たりません。なぜ離職するかと同様に、この観点も必要だと思います。 |
老人保健健康増進等事業 |厚生労働省 (mhlw.go.jp)
3)生活援助の訪問回数が多い利用者への制限は続く
前回2018年度の介護保険制度改正で、要介護度別に利用回数の制限がされ、制限以上に利用する人のケアプランは、毎月ケアプランを行政に提出し、そのプランの適正さをチェックするという制度が出来ました。この煩雑な制度のため、本来は必要な訪問介護を制限内の回数にしている現状がデータからも見え隠れしています。行政からも、頻回のケアプランチェック・ケア会議は負担であるとの声が出ました。今回の改正ではケアプランの提出は1年に1回となりましたが、訪問介護の利用制限は続きます。サービスを選べるのが介護保険制度なのですが、選択権が侵害されているともいえます。
今後も続くことになった生活援助の訪問回数制限は、要介護1が毎月27回、2が34回、3が43回、4が38回、5が31回です。例えば、1日3回、服薬のチェックと食事のヘルプサービスを必要とする、ひとり暮らしの認知症の方のためのケアプランでは90回になります。ケア会議で「適正」なプランと認定されればいいとしても、ケアマネージャーの負担はこれまで以上になっています。 |
4)通所・短期入所などの特例措置は3月末まで
同意のあるなし、使っていないサービスの利用料を支払う、区分支給限度額に含まれるなど不合理である措置で「家族の会」はじめ、日本弁護士会など様々な団体が要望書や声明などを発出し、撤回を求めていました。
報酬改定では4月より利用者数が前年度より5%以上減少した事業所の報酬を3か月(最大6か月まで)にわたって3%加算する(通常規模型)、大規模型は別の報酬体系で、報酬加算する制度にしています。
今回の介護報酬改定での柱の一番には「感染症や災害への対応力強化」が掲げられています。その中身は介護報酬での対応であり、現場の実情に合っていません。上記の加算は6か月までで、その後も災害や感染症への対応が必要な事態では、実効性がないのは明らかです。公費での負担を「家族の会」は要望し、分科会でも発言し続けましたが、かないませんでした。
委員の中からはこれまでの介護保険制度の課題であったことが解決した報酬改定であると高い評価もされていました。が、そうでしょうか。利用者の負担増・サービス給付の削減が今回の改正でも続いています。利用者の自立・主体性の尊重といいながら、データ数は少ない検証で、安全の有効性に不安が募る改正です。多く語られたことは、今回の改正での実態調査と検討を継続する事の重要性でした。私たちにできることは、利用での実態とその中からの声を審議の場にまた国に届けることです。安心して暮らせるためにも。
コロナ禍でデイサービス等を継続する苦労や利用減による収入減などへの対応として出された「特例措置」は、実際の利用サービスより2段階上の利用料を請求してもよい、というものでした。使っていないサービスの料金を負担するという事です。介護度によって決められた「区分支給限度額」ギリギリまで利用している人は、この“2段階アップ”による計算で、限度額を超えた場合、超過分は10割負担になります。「家族の会」は、昨年6月29日に「新型コロナウイルス感染症に係わる介護報酬の特例措置によるサービス利用者への負担押し付けの撤回を求める緊急要請書」を厚生労働大臣に提出しました。この特例は、年度末で廃止され、4月からの介護報酬改定の中で、別の形で残りましたが、上乗せ分は区分支給限度額の算定に含めないなどの改善をはかることができました。 |
第8期改定の審議は終わりました。
一昨年12月末に、介護保険部会から出された「見直しに関する意見」には、次期に向けて少なくとも次の項目が「引き続き検討する」事とされています。
〇被保険者・受給者範囲 =徴収を40歳以下への引下げ、給付を65歳以上への引上げ
〇多床室の室料負担
〇ケアマネジメントに関する給付の在り方 =ケアマネジメントサービスの有料化
〇軽度者への生活援助サービス等に関する給付の在り方 =要介護2までの給付外し
〇「現役並み所得」、「一定以上所得」=2割、3割負担の基準変更から、一律2割への道
私たち「家族の会」は、4月から始まる第8期の利用実態を、利用者と家族から寄せられる「生の声」に傾聴し、その課題を明らかにしながら、政策責任者としての政府に対して主張していくつもりです。そして、それほど時を開けずに始まる第9期の審議にも、その主張を反映させなければなりません。
2019年9月から始まったこの「動きレポート」は、今回で一旦終了させて頂きます。
介護保険制度の動きは止まる訳ではありませんので、また違う形でその動きの中にある 問題をお伝えしていきたいと思います。長い間お付き合いいただきまして有難うございました。
(注記およびまとめと文責 鎌田晴之)
リンク:厚生労働省(部会ホームページ)