どうするつもりか介護保険=改正の動きレポート#26【介護保険部会編】

介護保険・社会保障専門委員会

はじめに「介護保険をめぐる最近の動向」とは?~

 

 3月24日に、第92回厚生労働省社会保障審議会介護保険部会(「部会」)が開催されました。前回の第91回が2020年7月ですから2年近く経っての再開という事になります。委員として、花俣ふみ代副代表が出席しました。

 議題は「介護保険をめぐる最近の動向について」です。加えて「匿名介護情報等の提供等に関する検討状況について」の報告がありました。

 配布された「介護保険をめぐる最近の動向について」という資料は、「介護保険のしくみ」の説明から始まり、2000年の制度開始期から最近までの様々な統計資料や制度改定の歴史などが列挙され、さながら「介護保険制度の基礎知識編」という内容がまず示されています。加えて、現第8期の報酬改定にともなう制度運営の施策の詳細を並べた後、この審議会の議論に大きな影響を与えている、政府関係の会議「全世代型社会保障構築会議」「経済財政諮問会議」「規制改革推進会議」「成長戦略会議」(以上内閣府・首相官邸)「財政制度等審議会」(財務省)での、介護保険制度に対する「これまでのご指摘等」を紹介し、「最近の動向」としているようです。詳しくは000917423.pdf (mhlw.go.jp)をお読みください。

花俣ふみ代副代表の発言要旨

介護保険サービスを利用しない人が102万人(2019年度)

 資料の「要介護度別認定者数の推移」認定者数と「介護保険サービス利用者の推移」年度平均受給者数を差し引くと未利用者数が見えてきます。

 認定者は2.6倍だけど、受給者(つまり利用者)は3.2倍になるわけですが、認定者数と利用者数を比較すると、認定を受けてもサービスを利用していない未利用者のみなさんの人数が大変、気になります。認定を受けたにもかかわらず、なぜ未利用者がこれほど多いのか?この点に着目することで、何か大きな課題が浮き上がるような気がいたします。

 ひとつには『国民生活基礎調査の概況』の大規模調査2013年では、「家族介護でなんとかやっていける」、「介護が必要な本人でなんとかやっていける」という回答がもっとも多いと報告されています。が2016年・2019年と回を重ねるたびに肝心の「介護保険を利用しなかった理由」といった項目がなくなっています。従ってここからは原因が読み取れません。すでにそのあたりに関しての情報や調査資料等があるようならご教示いただきたいと思います。

 「要介護認定者」という事は、介護保険の目的である「尊厳の保持」と「自立支援」のために介護サービスを必要としている事を意味しています。にもかかわらず利用しない人の暮らし方が気になります。自治体では、介護保険事業計画づくりの際に、未利用者の調査を行っています。未利用の理由を問うていた時期の、いくつかの調査結果を見ると、要介護2までは50%前後の人が「家族介護で足りている」と回答し、要介護3以上になると「入院している」という理由が多くなる傾向が見られます。

 また、名古屋市の2016年度の調査では複数回答ながら16%の人が「利用料や食費の負担が大きかった」という理由を選択してい るのが気になります。

『これ以上の負担増・給付削減には耐えられない高齢者が多くいる』

 次に35ページの「2.給付と負担」について、第8期(2021~2023年度)では保留になったテーマに中に私たちにとっては大変深刻かつ重要なものが3点あります。まずは「(7)『現役並み所得』『一定以上所得』の判断基準」、つぎが居宅(在宅)サービスの利用者(先ほどの24ページのデータ・2021年度で399万人になります)約400万人の利用者にとって、欠かすことができないケアマネジメントに利用者負担を新設するというものです。そして、ショートステイと施設サービスの「多床室の室料負担」です。

 ケアマネジメントに関しては、有料化が利用者のサービス利用を抑制しかねない側面とそれによる数々のリスクが増大することは容易に予測できます。

 先の議論においても、繰り返し申し上げておりますように、これ以上の負担増・給付削減には耐えられない高齢者が多くいるという現実があります。

・『現役並み所得』『一定以上所得』の判断基準について

 2割負担は,単身で280万円以上、2人以上世帯で346円万以上。3割負担は、単身で344万円以上、2人以上世帯で463万円以上。

 これが現行の基準額です。この基準を下げれば対象者が増えることになります。昨年3月の財政制度等審議会(財政審)では、第9期介護保険事業計画期間からの実施に向けて「利用者負担を原則2割とすることや2割負担の対象範囲の拡大を図る」事を明記しています。

・ケアマネジメントに利用者負担を新設について

 負担新設については、「自己負担を通じてケアプランに関心を持つ」「ケアマネージャーのサービスのチェックと質の向上に資する」「他のサービス(1~3割負担)との均衡」といった理由が並べられています。サービス利用の「入口」であるケアプラン作りが有料化されれば、利用をためらう人が増えることが想定され、要介護状態の悪化等も心配されます。日本介護支援専門員協会は、5月17日に財政審に対する「見解」を発表し、(他の)「介護サービスと同列の支援とみなすことに無理がある」「自己負担を導入する事は……国民の利益に反する」としています。

・多床室の室料負担について

  介護保険三施設(特養・老健・介護療養型医療)の多床室については、2005年から「水道光熱費」のみが利用者負担になっています。2015年からは、特養多床室の一定の所得者に室料負担が加わりました。2018年のいわゆる「骨太の方針」に特養以外の施設の室料の在り方検討が盛り込まれました。いずれも「在宅利用者との負担の公平性」を根拠にしてきました。これまで「多床室の住環境は在宅環境と同様ではない」「室料負担は、事実上、低所得者や選択の余地を持たない利用者を締め出すことになる」等の反対もあり、継続審議になってきましたが、財政審は「室料負担すべき」と明言しています。

・『これ以上の負担増・給付削減には耐えられない高齢者が多くいる』について

  前号でも書きましたが、多くの高齢者は、年金収入のみで生活を維持しています

 「2019年度国民生活基礎調査」によると、「公的年金・恩給」のみの高齢者世帯は 48.4%、収入の6割から8割を占めている世帯を加えると75.4%になります。また、高齢者世帯全体の所得の内「仕送り」が収入の2割を占めています。貯蓄は、「無し」が14.3%、500万以下が25.2%ですから、約40%の世帯が500万円以下、という事になります。

「負担できるのかどうか」をしっかり調べることが不可欠

 現在、利用者負担は1割負担を原則に、2割負担、3割負担が設定されています。2割以上の負担をしているのは全体の1割程度となっています。

 「払える人には負担してもらうべきだ」という意見が繰り返し聞こえてきます。しかし、高齢の介護を必要とする人たちの「負担能力」はどのくらいあるのか、きちんとした資料を拝見したことがありません。

 ケアマネジメントの利用料や相部屋の家賃の新設も含めて、利用者の負担を増やすことを検討するのであれば、まず、「負担できるのかどうか」をしっかり調べることが不可欠であると考えます。

 また、本来なら認定を受けてサービスを利用するべきなのに、利用者負担があるからと、最初からあきらめている人はどのくらいいるのでしょうか?

 サービスを利用している人たちのなかでも、今の利用者負担がせいいっぱいで、利用料が増えたらサービスを削るしかないという人がどのくらい、いるのでしょうか?

 2021年度の国民年金の支給額は、満額で年78万900円なので、国民年金しか収入がない人は、満額であっても貧困線(『2019年国民生活基礎調査の概況』では、貧困線は124万円となっています)。を4割近く、下まわっていることになります。必要なのにサービスを利用していない人、利用していても今の負担だけでも生活がぎりぎりの人、こうした人たちがどのくらいいるのか、慎重で入念な調査を示していただいたうえで、審議を進めていただくことを強く要望いたします。

以上。

 前8期からの継続案件は、全て負担増につながるものです。

 ここに示された「負担能力」の実際、「未利用者」の実態、「利用者」の本音等をきちんと調べ、資料として公表する事  が、9期に向けての審議の前提条件であることは明らかです。

 この第92回「部会」議事録が、5月11日に公表されました。

 そこには、経済団体や健康保険組合連合の委員から「見直し」=負担増を求めるかの意見が出される一方、「利用者の立場」として全国老人クラブ連合会の委員は、「経済的に困難な人…を支えるのが社会保障であり、この介護保険である」「高額所得、あるいは資産運用ができる人たちの負担割合は極めて軽減されている」と指摘し「利用が抑制されるようなやり方はまずい」という発言もありました。また、介護保険制度の在り方に言及する意見もあり、日本医師会の委員は、「抜本的な財源確保、その上で必要な適正化」「公費投入・保険料・介護報酬それぞれの在り方」を「総合的に考えて行く必要がある」と述べ「尊厳の保持と自立支援はゆるぎないものであり、それを踏まえてのベストチョイスを」と締めくくりました。

 「家族の会」は常に、納得のいく改正を求めています。その意味で、花俣委員が、これからの審議の前提内容とした、利用者の実態調査をし「きちんとした資料」を公表することを厚生労働省に求めたいと思います。5月16日の第93回「部会」に出された資料「今後の検討のすすめ方」には、今の所「給付と負担」が欄外に置かれ、あたかも中心課題では無いように印象付けていますが、今後の審議を注視していきたいと思います。

 

(脚注・まとめの文責  鎌田晴之)

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