どうするつもりか介護保険=改正の動きレポート#39【介護保険部会編】

介護保険・社会保障専門委員会

はじめに~介護保険「給付と負担」の意見真っ二つ~

 2023年11月6日、第108回厚生労働省社会保障審議会介護保険部会(以下「部会」)が約4ヶ月ぶりに(前回7月10日)審議再開となりました。前回(第107回)では1.基本指針等について、2.給付と負担についてについての意見・質問などが行われており、今回(第108回)も引き続き「給付と負担」について審議されました。  

主な論点として、1つは「2割負担の判断基準について」(「現役並み所得」「一定以上所得」の判断基準)、2つ目は 「1号被保険者(65才以上の人)保険料の負担割合について」

2.住宅確保要配慮者への支援について

 今号は11月6日15:00〜17:00まで行われた会場とWEB会議形式で開催された第108回「部会」審議の動きを、委員である花俣ふみ代副代表理事の意見及び質問を中心にお伝えします。

社会保障審議会介護保険部会委員名簿

座席図

議事次第

【資料1】給付と負担について

【参考資料】給付と負担について

【資料2】 「住宅確保要配慮者に対する居住支援機能のあり方に関する検討会」中間とりまとめ素案について

第108回「部会」の要約は「介護保険ニュース#4」にも記載しておりますが、以下の内容です。

・2割負担の判断基準をめぐる意見として、生活実態への影響を考慮し、慎重に判断すべきとの意見が多数あった。

・介護保険負担割合は医療と介護の違いから、単純に医療の2割負担の基準を適用するべきではないとの意見もあった。           

・介護保険負担割合は収入(キャッシュ)だけでなく、資産等(ストック)も勘案すべきとの意見もあった。     

・1号保険料負担の在り方について、多段階化により、所得再分配機能を高め、低所得者の負担を抑えることが望ましいとの意見が多数を占めた。

・公費の充当等によって低所得者の保険料負担を軽減すべきとの意見もあった。

・1号保険料負担標準段階の細分化等により、保険者間の差異にも配慮すべきとの意見もあった。   

・ 住宅支援施策をめぐる意見では、国交省、厚労省、法務省の連携は評価できるが、自治体レベルでの取組が重要との意見が多数を占めた。また、介護保険制度との連携も重要との指摘や認知症高齢者への対応等、福祉的観点が欠かせないとの意見もあった。   

利用者2割負担への一定以上所得の判断基準を広げるということには疑問が残る。また、負担割合を増やす議論だけでなく1割未満を検討してはどうか。

【花俣副代表理事による意見及び質問①】
 まず、一定以上所得の判断基準についてです。あの資料拝見いたしますと、介護給付1割負担に該当する761万人のうち、後期高齢者医療保険の2割負担に相当するのは520万人、つまり約7割の皆さんが該当することになってしまいます。しかし75歳以上の収入と支出の状況を拝見しても、今ご指摘がございました通り、介護が必要と認定された皆さんに、2割負担になっても耐えられる経済力があるのか、ここを判断することができません。財政制度等審議会は11月1日の資料で再び利用者負担2割負担の範囲の見直しを出していますが、一定以上所得の判断基準を広げるという議論ができるのか、そのあたりは疑問があることを申し上げたいと思います。とはいえ、昨今の物価高あるいは人材不足を考えれば介護報酬は引き上げるしかない、負担割合に変更がなくても、年金収入が増えなくても利用料は増えていくことは理解できます。このため給付と負担を議論するのであれば、負担割合を2割以上に増やすことだけでなく、当初応益負担として一律1割であったものを応能負担とされた今、介護保険負担割合の低所得者の認定者向けの1割未満、0.3とか0.4といったようなそういう負担割合も併せて検討することも必要ではないかと思っております。
また、あわせて高額介護サービス費など負担軽減のための給付の見直しもあわせて審議することを要望したいというふうに思っております。利用者負担が上がったために必要なサービスを減らしたり、諦める人がないように慎重な議論が必要と考えます。
 参考資料の14ページに所得の状況ですかね資産の状況ですね。あるいは12ページ以降にもそういったものがあるんですけれども、これは収入だけではなく、資産も考慮した検討されるということになるのでしょうか。

<厚労省・介護保険計画課長の回答メモ>

 前回の部会等(第107回介護保険部会)でもご指摘ございましたが、ストックの状況(資産等の状況)も将来的には考えていくべきではないかというような指摘もあったので参考資料として14,15ページあたりの貯蓄の状況等を付けている。今回、貯蓄の状況まで全て含んでというところまで議論のスコープには事務局としてはしておりませんけれども、ご参考でお配りをしている。

1号保険料の高所得者を増やし低所得者を減らす提言に世論調査や被保険者の皆さんの賛同はあるのか?

【花俣副代表理事による意見及び質問②】 
高所得者といわれる皆さんの保険料を増やして、低所得者の皆さんの保険料を減らすという考え方についてどのぐらい被保険者の皆さんの賛同が得られているのでしょうか?この辺りは世論調査などで資料があればお示しいただきたいというふうに思います。
その上で申し上げておきたいのは、繰り返しになりますが、高齢者世代の収入は年金に大きく依存していることです。本日の審議は、年金は増えないけれど、物価は上がり、保険料も利用料も増えるというものです。11月2日に閣議決定された政府の経済対策では、低所得者支援をするとしていますが、期間が限られているようでもあります。現行の制度設計では、無理があるというのであれば、保険料だけでなく、税金などで公費を投入することを増やすことも検討する必要があるというふうに提言すべきではないかというふうに思っております。

<厚労省・介護保険計画課長の回答メモ>

検討の上、今ご指摘の資料については、該当資料があるかどうか、事務局として調査をさしていただいた上で、ございましたらご報告をさせていただきたいと思います。

その他の委員が次のような発言をしました。その他の委員の発言の一部を紹介します。

<委員発言メモ>(順不同)

●全国健康保険協会理事 鳥潟美夏子氏  

現役世代の社会保険料負担の水準といたしましては、特に私ども協会けんぽの加入者である中小企業とその中、現在の経済環境下では限界に達していると考えております。介護サービスの品質向上を図りつつ、介護保険制度の持続可能性を高めていったためにも、世代間、制度間、制度内での給付と負担のバランスについては、年末に向けて急ぎ議論を深めていただきたいと、またその必要があると考えております。今回のご提案であります、低所得者の方に配慮しながら被保険者の負担能力に応じた保険料の設定を行う今回の案については、私どもは妥当であると判断しておりますので、よろしくお願いいたします。

●健康保険組合連合会常務理事 伊藤悦郎氏 

2割負担の判断基準についてでございますけれども、今後も介護給付費というのは医療費の伸びを上回る勢いで大幅に増加していくということが見込まれてございます。一方で現役世代の負担につきましては既に限界に達していることに加えまして、今後さらにですね、現役世代が急減していくという状況の中で、この制度の安定性持続性の確保、また現役世代の負担軽減に対する見直しを進めていくということが必要であるというふうに考えてございます。そのためには、負担能力に応じた利用者負担の見直しに向けまして、低所得者に配慮しつつ、利用者負担につきましては原則2割負担にしていくという見直しが必要だというふうに考えるところでございます。(中略)後期高齢者の2割負担の議論の際にはですね、上位20%から上位44%までの五つのですね、選択肢の他、一般区分全員を2割負担とした場合の財政影響もご提示いただいた中で、議論の結果、最終的にいうふうに思ってございます。選択肢の提示にあたりましては、例えば住民税非課税の低所得の方を除いた全ての方を2割負担とするようなケースも含めまして、やはりあらゆる選択肢をご提示いただいた上で、後期高齢者2割負担の範囲も参考にしながら、どこが妥当なのか、こういったものを議論していくべきではないかというふうに考えてございます。

●公益社団法人全国老人福祉施設協議会副会長 小泉立志氏

一定以上の所得の判断基準についてでありますけれども、介護保険の利用者負担においては2割3割負担の合計が8.2%であり医療保険の2割3割負担の割合が27%とますけれども、医療保険は一時的な支出となる場合は多いのですが、介護保険は生活に密着した支出であり、一度負担を支払い出した人が、介護保険サービスが不要となるケースは非常に少なく、ほぼ永続的に支出が続くため一旦割合を軽はずみに上げると、日常生活における影響が大きいと推察されるため、現状維持が望ましいと考えます。次に1号保険料の負担のあり方についてでありますが、現行で言う9段階の方のみを対象として、制度内の所得再分配機能を強化し、低所得者の保険料上昇を抑制する観点から見直しを行うという考え方には基本的に賛成でございますが、負担増となる対象の方の大幅アップは昨今の物価高騰や、光熱水費の高騰等の状況において避けるべきと考えます。その対象者にとって不安の御不満の少ない改定とすべきと考えます。また市町村においては諸事情と相応の理由はあると思いますが、近隣市町村と大幅な差が生じないように、国の意向に沿った対応を望みます。以上でございます。

●民間介護事業推進委員会代表 座小田孝安氏

現役並みの所得、一定以上の所得の判断基準についてでございますが、介護サービス長期にわたってサービスを利用し続け、しかも生活に密着してるということ多いです。負担増から費用控えなどが起こって、利用者の状態悪化を招くことに繋がらないかという懸念がございます。(中略)資料の2割負担になったときの利用者が利用を控えたかっていう資料なんですけど、資料の下の方見てみると、平成27年のですね10月のデータです。8年ぐらい前のですね、少し古いデータじゃないかなと思って、これは先ほど何人かの委員の方からも意見が出てましたけど、あの資料の8ページの方では、物価が急激に上がっているという、多分食費、電気代が非常に上がってると思うんですけど、そういった影響がですね、介護サービスの利用に出てないのかどうなのかっていうですね、もう今回の議論年末まで時間は限られておりますけど、こういった面もですね、検討する必要があるんじゃないかなというふうに思っております。

【まとめ】

 第108回介護保険部会の議論は前回(第107回)に引き続き、介護のある暮らしに直結する「給付と負担」、すなわち、わたし達のお金(支出)の問題です。「一定以上所得」の基準を広げることが検討されていますが、1割から2割になれば、利用料は2倍にな

ります。年金という固定的な収入しかない人たちが、物価高騰に直撃されるなかで、利用料が倍になれば、サービスを半分にする、あるいはあきらめる人を増やすことになります。「介護のある暮らし」を継続するために利用者負担は現行制度を維持していくことを提言しております。

このレポートが、審議の全てをお伝えするものになりえないことをご理解いただき、今回のテーマを含め取り上げていない問題にも、意見・質問がございましたらお寄せください。

(まとめと文責 介護保険・社会保障専門委員会 和田 誠 )

 

 

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