どうするつもりか介護保険=改正の動きレポート#41【介護給付費分科会編】

介護保険・社会保障専門委員会

はじめに~令和6年度報酬改定に向けての必要な対応力強化とその提案~

 

 11月27日13:30から16:00まで日比谷国際ビルコンファレンススクエア8D参集及びWEBによるハイフレックス形式で開催された、厚生労働省社会保障審議会第232回介護給付費分科会(「分科会」)は、令和6年度介護報酬改定に向けて、認知症への対応力強化、感染症への対応力強化、業務継続に向けた取組の強化等、LIFE、・口腔・栄養、その他(高齢者虐待の防止、送迎)、6項目について審議されました。その中で、参考人(委員鎌田松代代表理事の代理出席)として当会より出席した尾之内直美理事の発言内容を中心に「分科会」審議の動きをお伝えします。

議事次第

委員名簿

資料1認知症への対応力強化(改定の方向性)

資料2感染症への対応力強化(改定の方向性)

資料3業務継続に向けた取組の強化等(改定の方向性)

資料4LIFE(改定の方向性)

資料5口腔・栄養(改定の方向性)

資料6その他【高齢者虐待の防止、送迎】(改定の方向性)

【尾之内直美理事による意見及び質問】(囲み内、下線は脚注用)

<認知症施策地域介護推進課長の説明と提案メモ>

 「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」成立により、基本理念また基本的施策において良質かつ適切な保健医療サービスおよび福祉サービスの切れ目ない提供が示されており、現在施行に向けた最終状況の準備をしているなかで、認知症への対応力強化は非常に重要な論点であると認識している。

 認知症対応力の強化 論点①「通所介護および地域密着型通所介護における認知症加算の見直し」(資料1認知症への対応力強化(改定の方向性)10ページ)。

 平成27年の介護報酬改定において、認知症加算が創設されている。しかし、現在のところ通所介護および地域密着型通所介護において算定状況が少なく、かつ実績としても低下傾向にある。もちろん、認知症対応型通所介護もあるのでそれも含めて考える必要もあるが、この減少傾向についてどう考えるか。認知症加算の対象になっている認知症自立度Ⅲ以上の利用者の割合が、近年、およそ17~18%程度になっている。算定していない理由も人員配置基準の問題に次いで、認知症自立度Ⅲ以上の利用者の割合が20%以上ないという意見をもらっている。こうした状況を踏えて、認知症自立度Ⅲ以上の利用者の割合が20%以上という要件について、直近の認知症自立度の受入れ割合データ等を踏まえて、利用実態に即して見直すこととしてはどうかという提案。

 あわせて、個々の職員だけでなく事業所全体として認知症利用者に対応してもらうことが通所介護では重要なので、従業者に対する認知症ケアに関する事例検討会等の定期的な開催についても要件に加えてはどうかという提案

 認知症への対応力強化ですけれども、論点1で対象利用者(認知症自立度Ⅲ以上)数が加算要件の20%に至らず見直しするのは賛成です。しかし、認知症自立度Ⅲ程度になると、BPSDが出現してきます。すると、デイサービスをお願いしたいと思っても、BPSD(例えば大きな声が出る、とても暴力的等)を理由に、「もううちでは預かれませんって」というような事を言われる方がすごく多くいらっしゃいます。「もし利用したいのであれば、病院に行って薬をもらってください」といわれ、ご家族は泣く泣く薬をいただいてそれで利用しているというような状況もあります。そうすると歩行状態が悪くなる場合もあり、結構厳しいなっていうような状況があります。従いまして、やはり現場の方の認知症対応スキルアップはすごくお願いしたいところです。
 それから14ページ(資料1認知症への対応力強化(改定の方向性)14ページ)の「認知症ケア力向上の取り組み」を見たときに、「認知症ケア力向上の取組は行っていない」と回答した通所介護事業所が12%、地域密着型通所介護事業所が14.6%となっていますが、非常に残念な数字ですね。認知症の利用者がとても多い中で、「もっと、これどうにかならないかな」というふうに思いながら見た数字です。
 「従業者に対する認知症ケアに関する事例検討会等を定期的に開催することとしてはどうか。」 との提案が採用されえれば、少しは改善されるかとも思いますが、これだけで大丈夫かなという不安もあります。

 尾之内直美理事は、「現行の利用者の受入要件(認知症自立度Ⅲ以上の利用者の割合が20%以上)について、認知症自立度の受入割合のデータ 等を踏まえ、利用実態に即して見直すこととしてはどうか。」と「事業所全体で認知症利用者に対応する観点から、従業者に対する認知症ケアに関する事例検討会等を定期的に開催することとしてはどうか。」の2つの提案に対し賛成の意見を述べたものの、これだけで通所介護及び地域密着型通所介護の認知症への対応力が本当の意味で強化されるかは不透明であり、心配しているとの意見を述べました。

<認知症施策地域介護推進課長の説明と提案メモ>

認知症対応力の強化 論点②「訪問系サービスにおける認知症専門ケア加算の見直し」(資料1認知症への対応力強化(改定の方向性)15ページ)。

令和3年度の介護報酬改定において、在宅も中重度者を含めた認知症対応力の向上の観点から「認知症専門ケア加算」が設けられた。この令和3年度の改定においては他の施設系サービスの算定要件と同等とし、認知症高齢者の日常生活自立度Ⅲ以上の利用者の割合を2分の1以上としていたが、訪問介護の利用実態と合致していない状況となっているため、算定実績が非常に低調な状況であり、これを課題として第1ラウンドでもあげさせてもらった。

まず、算定実績のない事業所でも認知症対応力向上の取り組みを行っている状況もある。また、訪問介護等の利用者も認知症自立度Ⅱ以上の割合も増加傾向にあることから、全体としてこの認知症対応力の向上をどのように図っていくか。対応案として認知症専門ケア加算について、訪問介護等における認知症高齢者の重症化緩和を図ることや、認知症自立度Ⅱの利用者に対しても適切に認知症専門的ケアを行っている事業所を評価する観点から、それぞれ認知症の受け入れ割合に関する要件を、利用実態に即して見直すこととしてはどうか。

 15ページ(資料1認知症への対応力強化(改定の方向性)15ページ)訪問系サービスにおける「認知症専門ケア加算について、訪問介護等における認知症高齢者の重症化の緩和を図ることや日常生活自立度Ⅱ の者に対しても、適切に認知症の専門的ケアを行っている事業所を評価する観点から、利用者の受入割合に関する要件を利用実態に即して見直すこととしてはどうか。」との提案には賛成です。しかしながら、認知症自立度Ⅱは症状が軽いと思われていますが軽くても認知症への対応は大変な部分が多いわけです。従いまして、認知症への対応力はものすごく大事になってくると思います。
 実際に当会の世話人さんでヘルパーをやってらっしゃる方から「他ヘルパー事業所の廃業や人材不足により休みが取れない状況で働いていて、なかなか余裕がないのが現場の状態。」との報告を受けています。ヘルパー不足を何とか解消しない限り、認知症対応スキルアップや余裕ある認知症への対応も、思うようには進んでいかないのではないかと考えています。

 尾之内直美理事は、認知症専門ケア加算の見直し(訪問系サービス)の提案には賛成しましたが、ヘルパー不足の深刻な現状を解消しない限り、認知症への対応力強化は思うようなものにならないのではないかとの疑問を投げかけました。

<認知症施策地域介護推進課長の説明と提案メモ>

 認知症対応力の強化 論点③「認知症の行動心理症状への対応および認知症の評価尺度の活用」(資料1認知症への対応力強化(改定の方向性)21ページ)。

 平成21年の介護報酬改定において認知症の行動・心理症状の緊急対応加算が創設されている。しかし、BPSDの発現を未然に防ぐことやBPSDの予防に資する取り組みや、緊急対応のみならず平時からの取り組みが重要ですが、こうした体制整備等について評価されてない状況です。

 令和3年度からの老健事業において、BPSDを未然に防止する効果、軽減、再発を防止するケアを実践するための有効な評価方法および体制実施方法の検討、介護現場で活用可能な認識機能、生活機能を総合的に評価する認知症の評価尺度のあり方について検討を行ってきた。このうち認知症の評価尺度について、現場における検証がまだ一部のサービスにとどまっており、引き続き検証が必要な状況になっているが、日常生活自立度との有意な相関があるということがわかっている。以上を踏まえ、今後のBPSDに係る加算のあり方や認知症の評価尺度の今後の多様な活用も含め、整理・検討していく必要がある。

 対応案として、BPSDの発現を未然に防ぐため、あるいはBPSD出現時に早期に対応する適切な認知症ケアに向けて、現行の認知症行動・心理症状緊急対応加算に加え、平時から予防に資する取り組みを評価する新規の加算を創設してはどうか。

 また、この認知症の評価尺度につきましては更なるエビデンス収集を図りつつ、現場における多様な活用やLIFEにおける活用を検討してはどうか。

 認知症の行動・心理症状への対応ということですが、当会において実施したアンケートの中に認知症中重度の方に対する在宅介護を断念したという調査結果があります。専門職の方々に様々なアドバイスや、相談できるなどのサポートもあわせてやっていただけると、もう少し頑張って在宅生活を維持できるのではないかとも思います。
 お尋ねですけども、「平時からの予防(BPSD の発現を未然に防ぐ)に資する取り組み」とはどういうことを指して言ってらっしゃるのかお聞かせいただければと思います。

<認知症施策地域介護推進課長回答メモ>

 認知症の行動・心理症状は、問題行動ということに狭めに捉えられているようですが、そういうことではなく、まさに認知症の行動・心理症状緊急対応加算としてやってきたものよりも、近年の検討では認知症の行動・心理症状が広く捉えられていると思っている。例えば不眠や抑うつ傾向など、認知症の行動・心理症状を多様に捉える上でのBPSDという言葉を使っている。これに対して、チームケアや認知症の行動・心理症状の出方に対する評価尺度で評価をする、それについて計画的に対応し複数名でチームを組んでケアを行うことによって認知症の行動・心理症状を有意に抑えることができるということが調査研究で検討してきた。こうした取り組みを予防的な対応ということで示しており、少しわかりづらいことをお詫びする。

 重要なことは、認知症の行動・心理症状が認知症の方の本来的な欲求行動に起因するものであって、科学的な取り組みを行うことによって、それをしっかり抑えていくことが重要であり、そしてこの取り組みをしっかり広げていくための加算を創設させてもらいたいという提案である。

BPSD(認知症の行動・心理症状)を加算の名称にする慎重意見が2人の委員からありました。

●日本慢性期医療協会常任理事 田中志子氏発言メモ

 BPSDという表現自体がマイナスのイメージでもあり、世界的にはこの表現を変えようとする流れも出てきました。名称をBPSDチームケア加算とすることが、ご本人たちにとって大変尊厳を損なう名称であると考えます。例えば診療報酬と併せて、認知症ケアチームやサポートチームなどへ変更してはどうかと提案いたします。

●慶応義塾大学大学院健康マネジメント研究科 堀田聰子氏発言メモ

 BPSDを加算の名称につけるのかどうかということは、田中委員のご指摘の通り、世界的にはほぼ使わない方向にということもありますので、ご検討いただいた方が良いかなというふうに思います。

<高齢者支援課長の説明と提案メモ>

その他(高齢者虐待の防止、送迎) 論点① 「高齢者虐待防止の推進」(資料6その他【高齢者虐待の防止、送迎】(改定の方向性)9ページ)。

 前回改定において全てのサービスを対象に、高齢者虐待防止措置を3年間の経過措置期間を経て、来年度から義務化することとしている。今年9月から今月中旬にかけて実施した調査によると、「実施済み」と「年度内に実施予定」を合わせると、いずれの項目もおおむね9割前後となっているがサービスによって違いがあり、福祉用具関係と居宅療養管理指導については8割に達してない状況。

 そこで対応案として、利用者の人権の擁護等を推進する観点から高齢者虐待防止措置がとられていない場合は基本報酬を減算してはどうか。ただし福祉用具関係についてはサービス提供対応が他サービスと異なること等から令和8年度末までの期間は減算の対象とせず、関係団体を通じて具体的な取り組み例を周知するなど更なる対応を行うこととしてはどうか。また、居宅療養管理指導については事業所のほとんどがみなし指定であることや体制整備に関する周知が不足していることを踏まえて、経過措置期間を延長し体制整備に向けて関係部局と連携を図ることとしてはどうかとしている。

 その他(高齢者虐待の防止、送迎) 論点②「身体的拘束等の適正化」(資料6その他【高齢者虐待の防止、送迎】(改定の方向性)12ページ)。

 介護保険法施行以降、改定の機会をとらえて運営基準への規定の追加、減算の新設、減算率の見直し等を行ってきた。現行の運営基準ではサービス種別ごとに、身体的拘束等の原則禁止や記録に関する規定の有無と、身体的拘束等適正化に関する措置に関する規定の有無が異なっている。今回行った調査では後者の身体的拘束等適正化に関する措置について施設系居住系サービスや短期入所、多機能系サービスを中心に全てのサービス種別で一定程度進んでいることがわかった。そこで、既に身体的拘束等の原則禁止や記録に関する規定があるサービス、具体的には短期入所多機能系サービスについては、1年間の経過措置を設けた上で身体的拘束等適正化に関する措置を義務づけることとしてはどうか。併せてこちらも1年間の経過措置ということになるが、記録や措置が行われてない場合には、基本報酬を減算してはどうか。また現在、原則禁止や記録に関する規定がないサービス、具体的には訪問・通所系サービスについては現に人格尊重義務違反に問われている事業所もあることから、原則禁止や記録に関する規定を運営基準に新たに設けてはどうかと考えている。

 高齢者虐待の防止のところですが、現場職員の人材不足や認知症の知識不足、事業所内の人間関係などもあり、いろいろなことが重なって本当に余裕のなさにも繋がっていると思います。是非、事業所内での相談体制の充実により、職員の方々の心のケア的なところも併せてやっていただけるような取り組みが進むと良いと思っています。
 介護施設(事業所)での身体拘束廃止・防止については、いろいろな研修機会やマニュアルの存在などで、かなり進んできてると思っています。それと比較すると医療機関での身体拘束の適正化が、まだまだ進んでないんじゃないかなって残念に思っています。
 認知症の方は、入院による環境変化に対応できず、混乱される方が多くいらっしゃいます。混乱すると身体拘束が行われ、その身体拘束が新たなBPSD出現につながり、最終的に薬の投与が当たり前になっています。なので、入院すると様々な点で悪化して帰ってくるという状況がとても多いように思っています。
 どうしても治療という大きな名目がありますので、やむを得えないこともあるのかもしれませんが、少しずつでもこれからの改善に期待したいと思っています。

 尾之内直美理事は医療機関における身体拘束廃止・防止について、意見を述べました。それに対し、公益社団法人日本医師会常任理事江澤和彦氏がこれに関連して興味深い意見を述べました

●公益社団法人日本医師会常任理事 江澤和彦氏発言メモ
 冒頭の方で委員の方から、医療機関での身体拘束廃止もしっかり取り組むべきというご意見もございましたが、次回診療報酬改定においては本格的な論点として始めて医療機関での身体拘束廃止について議論がなされておりますし、私も介護分野の取り組みはぜひ参考にするべきということも申し上げてございますので、医療分野でのこういった取り組みの推進も期待をしているところでございます。

 医療機関での身体拘束廃止・防止が、ほんの少し前進するかもしれないとの期待をもちました。皆様はどのようにお感じになられたでしょう。

 最後に、このレポートが、審議の全てをお伝えするものになりえないことをご理解いただき、今回のテーマを含め、取り上げていない問題にも、意見・質問がございましたらお寄せください。

(まとめ 文責  介護保険社会保障専門委員会 志田信也)

 

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